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インフレ下の小売業で「勝ち組」の条件が鮮明になっている。勝ち組企業は値上げと客数増を両立。共通項は、付加価値の向上で顧客の「支払い意思(WTP)」を引き出した点にある。一方、単なるコスト転嫁や安易な低価格維持は苦戦を強いられている。外食・小売り大手8社の事例を分析し、消費者が「価格以上の価値」を見いだすための勝ち筋を探る。(丸三証券アナリスト 長松律喜)
インフレ下の小売企業の価格戦略は
「値上げ」と「価格維持」に二極化
長らく続いたデフレの時代に、「価格優位性」を武器に業績を伸ばしてきた小売企業の中で、業績に差が出始めている。近年のインフレへの対応の巧拙によって、「勝ち組」と「負け組」の明暗が判然としてきたのだ。
原材料価格や人件費などの生産コストの増加に伴って物価が上昇する「コストプッシュインフレ」の下、各企業は収益を確保するためコストを商品価格へ転嫁する必要性が高まっている。しかし、値上げは消費者の買い控えを引き起こしかねず、価格戦略は困難を極めている。
そうした中で、小売企業の価格戦略は、コスト増を価格へ転嫁する「値上げ」と、コスト削減で価格優位性を確保し続ける「低価格維持」に二極化している。
顕著な例としてメガネ業界がある。デフレ時代に低価格路線で業績を拡大してきたメーカーのうち、「値上げ」戦略を積極的に推進してきたのがジンズホールディングス(HD)である。
これに対し、「低価格維持」戦略を推進し、単価上昇率をマイルドに抑え販売本数の増加を狙っているのが、「Zoff(ゾフ)」ブランドを展開するインターメスティックだ。両社の単価の伸び率を見ると、その戦略の違いは鮮明だ。
「勝ち組」の共通項は
“価格以上”の商品価値
小売企業における「勝ち組」の定義を、「客数が増加している」こととすると、月次売上高からジンズHDもインターメスティックも、共に勝ち組といえる。
この2社を比較すると、インフレ下で消費者の節約志向が高まっているため、価格優位性を維持したインターメスティックが優位に立つとみるのが自然だろう。しかし、月次売上高の推移を見ると、両社ともに好調を維持しているものの、ジンズHDの既存店売上高増収率がインターメスティックを上回っている月が多い。
ジンズHDは、「可視光調光レンズ」や「Airframe」などの高付加価値商品の導入や、機能性を起点としたマーケティング活動を実施。商品価値向上を踏まえた適切な価格設定も行った結果、25年8月期は国内一式単価(レンズ+フレーム)の伸び率が前期比12.9%増であった上、国内販売本数も前期比6.6%増であった。値上げと販売本数増加を両立できている。
一方、インターメスティックは価格優位性を維持する戦略であり、24年12月期の販売本数は同8.9%増となった。しかし、有料レンズ装着率の向上などの施策により、単価上昇率も前期比4.8%増となった。
このように、ジンズHDは「値上げ」で勝ち組に、インターメスティックは「低価格維持」で勝ち組になったといえる。ただし、既存店売上高増収率を見たときに、ジンズHDがインターメスティックを上回ったのは、ジンズHDが単価を上げながらも販売本数を維持できたからだ。その差が数字として表れた格好だ。
メガネ業界の例から、インフレ下で勝ち組となる小売企業に共通するものは、価格以上の商品価値を消費者に訴求できているかという点が重要であると考えられる。
つまり、消費者に商品を選好される要因は、「WTP」(Willingness to Pay=支払い意思。顧客が購入を決定する最大の価格)向上の成功によるものが大きいと考える。WTPを向上させる要素は、(1)商品価値の向上、(2)商品価値を消費者に正しく伝えるマーケティング、(3)商品価値に見合った価格設定などがある。
では、他の小売業態はどうか。
次ページでは、日本の小売企業8社を4つのグループ――①「値上げで勝ち組」、②「低価格維持で勝ち組」、③「値上げで負け組」、④「低価格維持で負け組」――に分類し、それぞれの特徴を分析する。









