歌手・中島みゆきの名曲「糸」の歌詞に「縦の糸はあなた、横の糸は私」というフレーズがある。実は、「経営の神様」と称された稲盛和夫も人生の縦糸・横糸について真剣に考えていた。名経営者と呼ばれた人物の人生観は、どのような縦糸と横糸で織り成されていたのか。※文中敬称略(イトモス研究所所長 小倉健一)
中島みゆきの名曲「糸」で歌われた
縦の糸と横の糸
歌手・中島みゆきが世に送り出してきた数々の名曲の一つに、1998年に発表した「糸」というものがある。
2023年5月25日に放送されたフジテレビ系「私のバカせまい史」の調べによると、この「糸」は04年、Mr. Childrenのボーカル、桜井和寿が中心となって結成された「Bank Band」によって初めてカバーされたという。それ以後、148人がカバーしたそうだ。福山雅治や綾香、工藤静香、平松愛理、クリス・ハート、JUJU、研ナオコ、五木ひろしら数々の著名な歌手によって歌われ続けた。
この「糸」はリリース当初、シングル曲ではなくアルバム「EAST AJIA」の中で収録された曲だった。20年には同曲をモチーフにした映画「糸」(毎日新聞社など製作委員会)が全国公開された。著作権法には「引用」であれば、誰でも自由に歌詞を転載していいと明記(著作権法32条1項)されているので、少しだけ報道を目的として引用したい。
もちろん、これを機会に改めてググれば全文が出てくるので、全ての歌詞をしっかり読んでほしい。
中島みゆきは、「糸」を知人の結婚式を祝うためにつくったという。
「縦の糸はあなた/横の糸は私/織りなす布は/いつか誰かを/暖めうるかもしれない」
このサビの歌詞を記憶している人は多いだろう。そして、歌詞を見た人の心にグッと印象を残すのが、歌詞の最後に登場する「仕合わせ」という言葉だ。あえて「幸せ」でなく「仕合わせ」と使っている。「糸」という主題にぴったりの言葉遣いだろう。
芸能に詳しい近藤正高氏の論考(文春オンライン【中島みゆきが70歳に「自分の曲の解説は嫌い」と公言するワケ 『家なき子』主題歌に出てくる「僕」の正体は…】22年2月23日)によれば、中島みゆきはこんな人物なのだという。
「(中島みゆきは)目指すレベルが高すぎるがゆえ、中島はアルバムをリリースしても、コンサートを終えても、そのたびに後悔するという。20年ほど前のインタビューでは、そう明かした上で、《これじゃあ、一生つくり続けていくしかないですね。それか、あるとき、すっぱり諦めて、『もうダメだ』と思うか、どっちかですね。多分、棺桶に入っても蓋開けて、『まだ違う気がするの』って言いそう。ヒッヒッヒ。私の墓場の近辺では、夜中、『なんか違う気がするの』って言ってるのがボーッと出ます、確実に。すいません。アッハハハ》と冗談めかして語っていた」
「彼女が、こと自分の作品については死んでもなお満足できそうにないという。逆にいえばその執念こそが、中島みゆきにけっして後ろを振り返らせず、絶えず前進させる原動力となっているのだろう」
ミリオンヒットを1本でも出せば、一生食べていけるような世界で、中島みゆきはたゆまぬ前進を続けたということだろう。
中島みゆきの名曲「糸」と交差する
稲盛和夫の人生の縦糸と横糸
そんな中島みゆきが「糸」で歌った「縦の糸・横の糸」だが、「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫も、人生の縦糸、横糸について真剣に考えていたようだ。稲盛といえば、「アメーバ経営」、そして「フィロソフィ(経営哲学)」が有名であるが、リーダーであることを自覚し、日夜、会社経営について考え、従業員がどうすれば幸福(しあわせ)になれるのかということと生涯を通して向き合ってきた人物だ。
そんな稲盛が考えた「人生の縦糸、横糸」とは何だったのか?