「人さえ増やせば仕事は速く進む」が大間違いなワケ【書評】Photo:PIXTA

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。今回取り上げるのは、「人さえ増やせば仕事は速く進む」という、ソフトウエア開発などの固定観念に一石を投じる一冊です。

引っ越し作業員から学んだ
「少数精鋭」ならではのスピード感

 知らなかったのだが、9月下旬~10月上旬は「第2の引っ越しシーズン」なのだという。1~4月が不動産屋や引っ越し業者の繁忙期というのは常識だが、秋口も異動や転勤が盛んで、結婚も多いため、引っ越しも頻繁に行われるそうだ。

 かくいう筆者も、とある事情から先日引っ越しをした。不動産屋に紹介してもらった、さほど有名ではない業者に頼んだのだが、かなり安く見積もってくれた。それでいて「安かろう、悪かろう」では決してなかった。当日は手際の良さに感心しきりだったのだ。

 作業員は男性3人。年配の方、若者、そして「その間くらい」の年齢の人物だ。最後に挙げた壮年の男性がリーダー格のようだった。イレギュラーなこともあったが、臨機応変に的確な判断を下し、すぐに3人で共有してサッと作業にかかってくれた。そのため、転居は想像していたよりも短時間で終了した。

 3人のチームワークを見ていて、このメンバーだからこその充実した仕事ぶりで、作業員が多ければいいのではないんだな、と思った。

 間取りや荷物をざっと見ただけで、顧客一人一人に応じた引っ越しのやり方を「設計」できるのは、経験を積んだ作業員ならではだ。慣れていない学生バイトなどが急に加わっても、意思疎通がうまくいかず、かえって時間がかかってしまうのではないかと考えたのだ。

 そして、筆者の見立てはあながち間違いではないということが、今回紹介する書籍『人が増えても速くならない ~変化を抱擁せよ~』で解説されている。

 もちろん、本書のメインテーマは引っ越しの話ではない。デジタル時代ならではの仕事であるソフトウエア開発を例に、「エンジニアを増やして人海戦術を採用しても、開発が効率的になるわけではない」といった指摘をしている。他の業種・職種におけるプロジェクト管理や働き方のヒントにもなりそうな内容だ。

 著者の倉貫義人氏は、ソフトウエア開発などを手掛ける企業「ソニックガーデン」の創業者で代表取締役社長。大手システム会社を経て同社を起業した人物だ。