2020年3月に始まり、コロナ禍で打撃を受けた中小企業を救ったゼロゼロ融資。今、その返済が徐々に始まっている。そこで改めて問われるのは、税理士が顧問先企業の持続的な成長をサポートできるかどうかだ。月次決算書の作成や税務申告など、税理士の定型業務だけを請け負う旧来型税理士は、企業からリストラされる時代が、再び到来している。特集『会計士・税理士・社労士 経済3士業の豹変』(全19回)の#3では、税理士業界の最前線を追った。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)
ゼロゼロ融資に救われた税理士
アフターコロナで生き残る条件は?
2022年9月末時点の税理士登録者数は8万0423人だ。このうち9割以上が、中小企業を顧客に抱える「街の税理士」だといわれる。
街の税理士は一般的に、中小企業と月額3万~5万円の顧問契約を結び、領収書やレシートを基に日々の資金の流れを記録する記帳代行業務や月次決算書の作成、税務申告、簡単な税務相談などを“基本メニュー”として提供する。
だが、こうしたセンセイは既に“賞味期限切れ”だ。
最大の要因はデジタル化だ。13年、freeeとマネーフォワードが、簿記や経理の知識がなくても決算書作成などができるクラウド型会計ソフトを相次いで発売。街の税理士の基本メニューを侵食し始めたのだ。
これがきっかけとなり、月額顧問料金の相場は下落。街の税理士の間では、旧来の仕事のやり方から“豹変”しなければ生き残れないという危機感が一気に高まった。
そこで現れたのが、freeeやマネフォを使いこなし、顧問先の税務・会計業務の効率化をサポートしたり、料金単価が高い税務・会計コンサルティングなどにシフトしたりする新型の税理士だ。
この段階で、デジタル化に対応できなかった高齢税理士の多くが一線を退いたとされる。
そんな中で14年、英オックスフォード大学で発表された論文「雇用の未来」は、生き残り競争を戦う街の税理士たちに大きな衝撃を与えた。「10年後に消える職業」として「税務申告者代行者」が記載されたのだ。
中堅税理士法人代表は「AIで消える税理士は、食えない“終わった”資格と見られるようになった」と振り返る。試験合格者数が年々下がっていく原因になったといわれ、税理士たちのプライドに、大きな傷が残った。
ところが、である。明るい話題のない税理士業界の空気を変えたのが、実は20年1月から本格的に始まったコロナ禍だった。
急激な経営悪化に陥る中小企業が続出。幸か不幸か、税理士による経営相談のニーズが激増することになったのだ。
20年3月に始まった無利子・無担保のいわゆる「ゼロゼロ融資」も追い風となった。経営相談と資金調達のセットで、顧問先をサポートする税理士が大活躍。ゼロゼロ融資は大量の中小企業を救ったと同時に、税理士も救ったのだ。
だが22年に入って、2年間続いたゼロゼロ融資が終了。既に一部の企業では、利子免除が23年までであることをにらんで、今のうちから返済する動きが出ている。
足元の景気は、ウクライナ戦争をきっかけとした物価高や円安で、決して良い状況とはいえない。そんな時代に中小企業から求められ、生き残る新たな税理士像とは、どのような税理士なのか。次ページでその条件を探った。