大人初心者がピアノを習い始める理由のひとつに、自らの演奏を人前で披露したいという具体的な目的がある。たとえば友人の結婚式で自らの演奏で祝福したいというのがその一例だが、そもそもまったくの大人初心者、それもピアノなど子どもの頃からろくに触れたことのないような人が、半年ないし1年程度、週1回約30分のレッスンという条件で無事、友人の結婚式でピアノ演奏はできるものなのだろうか。また、そうしたニーズに応える「弾きやすい曲」というものはあるのだろうか。
「そのケースであれば、どの曲というのは講師の私のほうから決めることはないでしょう。レッスン生の側に『友人の結婚式で……』という具体的な目標があります。なのでレッスン生本人と相談して決めていくと思います。また、この場合の目的はピアノを上達させるというより、ある一つの曲を弾けるようになればよいので、それ特化したレッスン内容になるとは思います」
1年間レッスンを受ければ
ショパンやベートーベンを弾けるのか
まったくの大人初心者が短期間で曲を仕上げる。こうした話は巷で良く聞く話ではある。そうすると、それまでまったくピアノに触れたこともなく、楽譜も読めない人でも、1年間、週1回30分程度のレッスンを受ければ、それこそショパンの『革命』や『英雄ポロネーズ』、ベートーベンの『月光第3楽章』といった著名な楽曲を、どうにか弾く(技量面はさておき、間違えず、一曲弾き切るという意味)ことができるのではないかという希望と期待が持てる。
だが、「どこのピアノ教室でも匙を投げられた大人初心者」の技量を引き出す指導力に定評がある大倉氏も異を唱える。
「希望を打ち砕くようで申し訳ないのですが、まったくの初心者が一年間でそれだけ練習をしたとしても、さすがにその難易度の曲を弾けるようになるのは無理です。技量面で、かなりの難曲の部類に入るので、たとえば『革命』なら、そればかりやったとしても数年はかかるのではないでしょうか……」
では、ショパンの『革命』などの難曲と言わずとも、ピアノが置かれているバーやクラブなどで意中の異性に聴かせる目的で、何か曲を披露することはできないものか。男性読者のなかには、そんな希望を持つ向きもあるだろう。