また大人初心者の側も、「(実際に弾けるようになるかはさておき)きちんと基礎から演奏技量を身に着けたい」というリクエストもあれば、「昨今、巷に出回っている難曲を初心者でも弾きやすくアレンジした『簡単楽譜』で、一曲通しで間違うことなく指が動けばそれで良し」という人もいて、そのニーズも様々だ。

まずはピアノ講師探しだが、
相性が合わないと悲劇なことに……

 大人初心者のニーズとピアノ講師が提供するレッスン意図、これが合致すれば問題はない。だが、そうでなければ互いに悲劇となる。

「大人ピアノ」が密かなブーム、初心者でも様になる練習法を現役ピアニストが伝授大倉卓也(おおくら・たくや)
ピアニスト。京都市立芸術大学卒業。同大学院修士課程首席修了。大学院市長賞を受賞。その後渡仏。パリ地方音楽院で3年間学ぶ。関西のクラシック音楽界隈では「今、もっとも注目すべき若手実力派」といわれている。2022年、バロックザールにて行われた芥川作曲賞受賞などで知られる作曲家・酒井健治氏の個展では「ピアノのための練習曲集第2巻」から「トッカータ」「死の舞踏」を世界初演。大成功を収めた。六甲学院高校3年生のときに兵庫県学生ピアノコンクール高校生部門最優秀賞受賞。KOBE国際音楽コンクールC部門最優秀賞、ピティナ・ピアノコンペティションG級全国大会入選など、その他受賞歴多数。
(写真提供/えんつミュージックスクール)

――大人初心者がピアノを習う際、「先生選び」はとても重要です。ずばり「相性の合うピアノの先生」と出合うためのポイントは?

「先生選び……。難しいですね。まずは実際に先生と会ってみる、レッスンを受けてみることでしょうか。今の時代、スマホひとつでピアノ教室を検索できます。体験レッスンを行っている先生、教室も沢山あるので、足を運んでみることをお勧めします」

 ピアノ講師としては「大人初心者」、とりわけ「どこの教室でも匙を投げられた永遠の大人初心者」の実力を引き出すことに定評があるといわれる大倉氏だが、意外にも大人と子どものレッスン生、そのレッスンに区別は設けていないという。

「大人なら論理的に説明した時に理解しやすいです。小学生では理解できないことを大人なら簡単に理解できることもあります。強いて言えば上達の助けになるよう、大人のレッスンでは、時に論理立てて説明することがあります。それくらいでしょうか」

――レッスンに大人と子どもの区別を設けない。これは練習も同じでしょうか。

「やはり基礎練習が大事です。これはピアノだけではありません。テニスや野球などスポーツでも同じです。では、ピアノにとっての基礎とは何か。これは『楽譜が読めて音符と鍵盤の位置が一致した段階』までの技量を習得している人という仮定で話を進めます。

 そもそもピアノを弾くのに使う指の筋肉、これは日常生活では全く使わないものです。なので私はハノン(練習曲)の練習を強くお勧めします。これはある程度の熟練者でも同じです。ピアノ弾きにとって常に必要なバイブルといえるかもしれません」