“繰り下げメリット”を実感できるのは、繰り下げてから12年後
繰り下げ受給のルールを聞くと、「そんなおトクなしくみなら利用しない手はない」となりそうですが、デメリットがないわけではありません。
繰り下げ受給は長生きするほどトクになりますが、長生きできなければトータルでの受給額は本来の65歳受給の場合を下まわります。具体的には繰り下げ受給を開始した年齢から11年10カ月経過すると、65歳の本来時期から受け取り始めた人に受給総額が追いつきます。ざっくりいえば、繰り下げ受給を開始した年齢から12年以上生きればトクになるというわけです。70歳まで繰り下げれば82歳、75歳まで繰り下げるなら87歳まで長生きすれば、「繰り下げした甲斐があった」ということになります。
厚生労働省の令和4年簡易生命表によると、60歳からの平均余命は男性が83.59歳、女性が88.84歳です。平均余命まで生きるとすると、男性では71歳までに受け取り始める必要があり、女性なら75歳まで繰り下げてもOKということになります。
税金・保険負担、手取り額の減少も考慮する
繰り下げ受給の判断では、生涯で受給できる年金総額に加えて、税金や社会保険料の負担も考慮する必要があります。会社員の給料からは税金や社会保険料が天引きされており、給料が高い人ほど負担が大きくなりますが、これは年金でも同じです。年金生活者であっても健康保険料や介護保険料を支払いますし、年金が年158万円を超えると所得税も課せられます(65歳以上の場合)。
要するに、繰り下げ受給をして税や社会保険料の負担が増えると、最終的な手取りが期待するほどに増えない可能性があるのです。繰り下げ受給で年金の額面を84%増やしても、手取り額の増加分はそれを下まわります。