こうした負担額は自治体によっても異なるので、目安ではありますが、年金額が年300万円を超えると税や社会保険料の負担が15%に達します。平均的な年収で40年間会社勤めをしてきた人の年金額は年180万円程度なので、73歳まで繰り下げると年金は300万円を超えます。すると天引きされる額が大きくなってしまいます。さらに、75歳からの医療費負担に影響することもあります。

 税などの負担が増えても毎月の手取りは繰り下げない場合よりは増えるので、メリットがなくなるわけではありません。毎月の受給額を増やすことを重視する人はできるだけ繰り下げるのが得策ですが、トータルでなるべく損をしたくないという人であれば繰り下げは70歳ぐらいまでを目安にして、年金額を増やしすぎないようにしておくのも有力な選択肢の一つです。

もともと年金額が少ないなら、税負担も少ない

 専業主婦(夫)の期間が長い人や低めの収入が続いた人、自営業者など、もともとの年金額が少ない場合は、税や社会保険料負担の増え方もそれほど大きくならないので、なるべく繰り下げて年金額を増やすメリットは大きくなります。たとえば、自営業者や専業主婦(夫)が受け取る老齢基礎年金は満額で年79万5000円(令和5年)です。最大の75歳まで繰り下げても146万円ほどで、これは単身であれば所得税も住民税も課税されない金額です。

 特に女性は男性よりも長生きする傾向があるうえ、夫に先立たれると世帯としての受給額が大幅に減るので、自分の年金が少ない女性は可能な限り繰り下げるメリットは大きいといえます。

厚生年金で繰り下げないほうがトクな人とは?

 公的年金にも家族のための「扶養手当」にあたる給付があります。一定の要件を満たした年金受給者には、「加給年金」という扶養家族のための年金が加算されるのです。

 加給年金は原則として加入者本人(多くは夫)が65歳から支給が始まります。金額は年額39万7500円(令和5年度)で、高校生以下の子がいる場合には上乗せされます。たとえば、60歳の妻を持つ65歳の男性の場合、妻が65歳になるまでの5年間、加給年金を受け取ることができます。5年間では200万円近くになり、インパクトのある金額です。