むずかしい制度や年金のしくみを知らなければ、正しい選択、損をしない選択はできない(写真はイメージです) Photo:PIXTA
かつて、老後2000万円問題や消えた年金といった問題がメディアを賑わせたこともあり、老後の資産形成に不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。年金は、定年後の人生で最も頼りになる収入源です。充実した老後を送るために最適な受け取り方は、自分自身で設計していかなければなりません。とはいえ、むずかしい制度や年金のしくみを知らなければ、正しい選択、損をしない選択はできません。前回に続き、気鋭のファイナンシャルプランナー森田悦子さんの著書『定年前後のお金の選択』(青春出版社)から、年金の気になる疑問にお答えします。
やっぱり年金を増やせる繰り下げ受給がおトクなの?
「ノーリスクでお金を増やせます!」なんて甘い言葉をささやかれたら、それは詐欺か嘘なので絶対に耳を貸すべきではないのですが、一つだけ例外があります。それが年金の繰り下げ受給です。
本来であれば、お金が倍になる可能性のある金融商品は、半分に減ってしまうリスクを覚悟しなければなりません。ところが、年金の繰り下げ受給だけはそんなリスクはゼロで受給額を最大84%増やすことができるのです。
“繰り下げメリット”を実感できるのは、繰り下げてから12年後
繰り下げ受給のルールを聞くと、「そんなおトクなしくみなら利用しない手はない」となりそうですが、デメリットがないわけではありません。
繰り下げ受給は長生きするほどトクになりますが、長生きできなければトータルでの受給額は本来の65歳受給の場合を下まわります。具体的には繰り下げ受給を開始した年齢から11年10カ月経過すると、65歳の本来時期から受け取り始めた人に受給総額が追いつきます。ざっくりいえば、繰り下げ受給を開始した年齢から12年以上生きればトクになるというわけです。70歳まで繰り下げれば82歳、75歳まで繰り下げるなら87歳まで長生きすれば、「繰り下げした甲斐があった」ということになります。
厚生労働省の令和4年簡易生命表によると、60歳からの平均余命は男性が83.59歳、女性が88.84歳です。平均余命まで生きるとすると、男性では71歳までに受け取り始める必要があり、女性なら75歳まで繰り下げてもOKということになります。
税金・保険負担、手取り額の減少も考慮する
繰り下げ受給の判断では、生涯で受給できる年金総額に加えて、税金や社会保険料の負担も考慮する必要があります。会社員の給料からは税金や社会保険料が天引きされており、給料が高い人ほど負担が大きくなりますが、これは年金でも同じです。年金生活者であっても健康保険料や介護保険料を支払いますし、年金が年158万円を超えると所得税も課せられます(65歳以上の場合)。
要するに、繰り下げ受給をして税や社会保険料の負担が増えると、最終的な手取りが期待するほどに増えない可能性があるのです。繰り下げ受給で年金の額面を84%増やしても、手取り額の増加分はそれを下まわります。







