お金とは何かを知ることは、
豊かな人生に欠かせないファクター

山口:僕が新卒で飛び込んだのは、企業合併や買収を行うM&Aの世界。でもこのコンサルティング会社への就職っていうのは、実は僕の「弱さ」の結果だったんですよね。

米田:弱さ?

山口:子どもの頃は僕、芸大に行きたかったんですよ。だけど実家が事業をやっていたし、大学受験の頃はバブル崩壊後で、何より「食う」ということが大事なんじゃないかと思えた。それで政治経済学部に入り、そのままM&Aのフィールドに進んだわけです。つまり、自分が好きなことをやるよりも、まず「食える」ことが最優先だと価値観をねじ曲げてきた。

米田:へえ、今の山口さんのお仕事からみると芸術系だったなんて意外だなあ。

山口:ねじ曲がったまま、22歳から30歳くらいまで、ずっとM&Aとかコンサルとかやってきたんです。でもそれは自分のコアではないし、好きなわけでもなくて、自分の中の弱さをどうやって儲けることで埋めるか、というような心境だった。もちろんそこでお金は手に入れたけれど、最終的には思想的に行き詰まっちゃって。それで思いきって会社を辞め、自分の事業を始めたんです。

米田:じゃあそこからは、自分のコアに正直に生きることにした、と。

山口:ええ、まず「こういうシステムを作りたい」という思いが最初にあって、それを実現したら、次にそのシステムでどうやって食っていくかを考える。あるいは、それを作るために金が必要なら何とかして調達する。これがまさに今の僕の思考パターンです。「好き」が先にあって、それで何とか「食える」ように方法を考える。

米田智彦さん

米田:それは面白いなあ。要は考えて始めるんじゃなくて、考えながら始めて、やりながらまた考えるというか。僕も本のなかで、重厚長大なプランを描き、その通りに進めていくという従来型の人生設計を持つのではなく、1つ1つ自分の手でこねるようにして人生を作っていく「脱逆算型」の提案というのを書いてみたんですよ。山口さんは、まさにそれですね。

山口:30歳前後で、大きく生き方も働き方も変わったんですよね。

米田:僕も30歳でようやく出版社に勤めて、いわゆる編集者になったんですよね。20代は作曲とかバンドとか音楽やってましたから。

 でも、相変わらずプランに沿った人生設計を後生大事にしている人や、「食える」ことを最優先して、そのなかでできるだけ好きなこと、楽しいことをやろうと思っている人が大半のように見えているのが現実だと思うんです。本当はそうじゃないと思うんですけどね。ある程度、イメージは握ることは必要だけど、そこまでの道のりなんてどうなるかわからない。挫折、転落、失敗もあっても都度、調整していくというか。

山口:「お金が欲しい」「殖やしたい」と思っている人も本当に多いですよね。でもね、僕は自分の体験を通して強く感じたんですよ。実は「どうやってお金を手に入れるか」ではなく、「お金とは何か」を知った方が、豊かに生きられるんじゃないか、って。