上海市宝山区といえば、上海でも名だたる工業地帯だ。その中核となるのが、“宝鋼”(バオガン=宝山鋼鉄の略)と呼ばれる「宝山製鉄所」、日本人にとっては、山崎豊子氏の長編小説「大地の子」の舞台として知られているところである。宝山製鉄所は、もともとは日本の新日本製鐵(現・新日鐵住金)の技術協力で1978年に建設が始まったが、今では「中国最大の製鉄所」として多くの子会社を抱える大企業「宝鋼集団」に成長した。

 世界の粗鋼生産量の約半分を占める中国の鉄鋼業界。その中で最大と言われる宝山製鉄所は年産4427万トン(2011年)で世界第4位にランクインする巨大製鉄所だ。筆者は今年2月、この「鉄の街」を歩いた。

製鉄所からの排煙で空は常に暗く、太陽も見えないPhoto by Konatsu Himeda

霞む景色、見えない太陽
日本の70年代さながらの光景

 上海市を北上する3号線に揺られ終点駅から2つ手前の「友誼路」という駅で降りた。駅前の幹線道路は、原材料や完成品を乗せたトラックが爆走する。ここが工業地帯であることは、舞い上がる粉塵で一目瞭然だ。

 駅前からタクシーに乗り込むと、にわかにノドがいがらっぽくなり、軽い咳が出始めた。目の前の空気は明らかに黄色がかった灰色だ。太陽もどこにあるのかわからない。「ここはいつもこんな天気なんですか」「地元の人は平気なんですか」と運転手に質問するが、地元民である運転手の関心度は低い。

 筆者が訪れた「月浦鎮」(※1)の面積は約53km2だが、宝山鋼鉄の敷地だけでも、鎮の約4割、23km2の敷地面積を占める。その大きさは、東京ドームのざっと492倍、東京ディズニーランドならば29倍だ。その村の至る所に「宝鋼××公司」と書かれた関連企業がひしめいている。

 敷地に沿って伸びる街道を、どこまでもひたすら走った。しばらくすると、遙か彼方に煙突が見えてきた。この製鉄所は鉄鉱石から鉄を取り出し、最終製品にするまでの一製鉄所であり、高炉、軽炉、電気炉を設置し、鋼板、鋼管ほかステンレス鋼板、特殊鋼などを生産している。集合煙突からモウモウと吐き出される白い煙は、365日止まることはない。

※1:「鎮」は日本でいうところの「村」