もし自分の顔が今と違っていたら、もし背が今より10cm高かったら、もし今より声が 低かったら、もし性別が逆だったら、皆さんは今と同じ性格に本当になっていたでしょ うか?

時間を遡ってこれらを試すことは難しいので、この「もし」を検証することはできないとは思いますが、「NO」と答える人のほうが多いと思います。

その人の性格・個性・人格は、身体的な特徴と密接に結びついており、かつそれらは暮らしている環境によって相対的に変化するものである可能性が高いのです。

例えば、身長180cmの日本人男性がいたとします。日本人男性の平均身長は170cm前後なので、彼は周りよりも身長が高く、バスケットやバレーなどのスポーツでは優位となり、活躍できるかもしれません。それが自信となって後天的に「明るく活発で勝ち気」といった人格が形成されるかもしれません。

ただ、もし彼が育った環境が日本ではなくオランダだったらどうでしょう。オランダ人男性の平均身長は183cmです。180cmの彼は平均より小柄な男性となります。

もちろんバスケやバレーでも、190cm以上の人がたくさんいるので、優位どころか不利にすらなります。そうなると、先ほどのような人格形成につながるでしょうか? 少なくとも本人が考える自分の特徴に「背が高い」という項目は入っていないはずです。

実際に人間の内面性は、生まれつきの先天的な要素と、環境などの後天的な要素が両方影響して、それらが混ざり合って人格が形成されると考えられています。

佐藤航陽著『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』(出版:幻冬舎)
佐藤航陽著『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』(出版:幻冬舎)

つまり「人格は身体の特徴に引っ張られている」ということになります。そして、もし人格と身体が切っても切れない不可分なものだと仮定するならば、身体から解放された場合に自分がいったいどんな人格になるのかを自分自身もわかっていない、ということです。もしかすると、今の自分は身体の特徴に制約を受けた人格であって、本当の自分はもっと違う人格なのかもしれません。

外見と人格という点では面白い現象がメタバース上でよく見られます。メタバース空間ではアバターは自由に設定できるので、中年男性が美少女のアバターを選ぶということもできます(実際にこういうケースは普通に多いです)。

テキストのチャットのみなら本当の性別は外からわかりませんし、ボイスチェンジャーを使えば男性が女性の声を出すこともできます。実際にやっている人の話を聞いてみると、美少女のアバターをまとっていると周りも美少女として接してきますので、徐々に内面も「美少女っぽく」振る舞うようになっていくらしいのです。周りからも求められることで、挙動や発言も徐々にアバターに合わせた「かわいらしさ」を追求していくようになっていくようです。