二度の代表交代を経て──ペイミーCEOに就任した卜部宏樹氏が目指す、新たな「給与」の形
 

勤怠データや給与データなどをクレジットスコアに転換する

──企業側のワーカーに対する考え方にも変化が生じていると。

変化が生まれていると思います。ひとつの潮目として、新型コロナウイルスの影響を社会全体が受けてきたこの2年ほどの間に、僕たちの生活がエッセンシャルワーカーの方々に支えられている事実が世の中で共有され、感謝の気持ちが広がったことが大きいのではないでしょうか。ESG経営やSDGsが叫ばれる流れも、「給料」に対する価値観の変化に影響していると思います。

人口減少によって今後も人手不足が続く中で、「今いる従業員に長く働いてもらいたい」と考え、その意思を表現する方法を求めている企業は増えていくはずです。その気持ちに伴走しながら、新しい流れをつくっていきたいと思っています。

法改正次第ではありますが、給与のデジタル払いも数年以内には実現すると見ています。すると給与支払いに関するコスト全体が劇的に下がる可能性が高く、その分、ワーカーに還元しようと考える企業も増えるはずです。

──手数料ゼロになれば、即時精算の利用者増も見込めそうです。

はい、本当にその日に困っている人をもっと助けられます。ペイミーの利用者の中には若いシングルマザーの方も多く、「今すぐ振り込まれないと、帰りの電車賃がない」「小学校の入学式までに子どものランドセルを買ってあげたい」、そんな声も聞かれるんです。そういった切実な願いに応えられる会社であり続けたいと思っています。

将来的にはペイロール(給与支払いシステム)を一気通貫で開発し、勤怠データと給与データを完全につなげていく。これが僕たちがこれから目指す「デジタルバンキング」です。そして、さらにこの先に「新たなクレジット(信用)」を生み出せると信じています。

──新たなクレジットとは。詳しく聞かせてください。

エッセンシャルワーカーの方々の多くは、年収300万円以下のいわゆる低所得層にあたります。実際にヒアリングを重ねて見えてくるのは、生活を回すのに精一杯で、より貧困になっていく構造です。高い金利を払って借り入れをしてしまったり、計画的な支出ができなかったりして、悪循環に陥っている。これは決して本人だけに原因があるのではなく、「低所得層にはファイナンシャルリテラシーが提供されづらい」という社会的構造があります。

金融商品を購入するゆとりがある層にはマネーセミナーが開催されますが、その見込みがない層に対しては十分な情報が提供されないですし、公教育でも十分に教えられないですよね。結果として、僕たちの生活を支えている低所得のエッセンシャルワーカーの方々の社会的信用が低く見積もられ、住宅ローンやクレジットカードの契約が成立しないという問題が起きています。