プロダクトの作り手は“フラット”に聴くことが苦手

お掃除好きの主婦を集めて実施された、そのユーザーインタビューでは「ちょっと野菜を拭いたり、皿の水気だけ取ったペーパータオルはもったいないから取っておいて、それを夜、台所の床を拭くのに使っている」という、家事をやる人にとっては大変リアリティあふれる意見が聴けたといいます。この何気ない主婦たちの会話が新製品開発のヒントとなったのです。

しかし、同じ主婦たちにもし、「床の掃除には何を使っていますか?」などという直球の質問を投げかけたら、「掃除機」「モップ」といった一般的な答えが返ってくるだけだったことでしょう。

実は、製品開発を担当している人は──たとえば素材に詳しければ、そこにこだわりがある分──その観点でしか質問ができないという傾向があります。それを他人であるモデレーターが、オープンに、普段の台所での立ち居振る舞いのようなところから話を広げていったことで、新しい製品開発のヒントをつかむことができたというのが、この話のポイントです。

開発者・作り手は、プロダクトへの思い入れや思い込みがあるので、得てしてユーザーにはフラットに質問することができません。では、気兼ねなく話ができる身近な家族に質問を投げかければどうでしょうか。今度は聞き手の話し手に対する思い込みによって、やはりフラットには聴くことができない可能性が生じます。

このように、主題(テーマ)や話し手との関係性による思い込みがあるときに、話をフラットに聴くということは大変骨の折れることです。一方で、フラットに聴くことができれば、しゃべっている本人であるユーザーもそれが大事だとは思わなかったようなことが、価値の源となり、新しい製品や機能のアイデアの源となるのです。

聴く態度・スキルを知れば発見やチャンスに近づける

スタートアップなどで、人が足りない、お金もないタイミングではなかなか、プロフェッショナルを雇ってグループインタビューを依頼する余裕はないかもしれません。しかし「フラットに聴くとはどういうことか」、“聴く”ということの態度やスキルを多少なりとも知っていれば、プロダクト開発に役立てることができます。

場合によっては、社内でもプロダクト開発に関わらない人がユーザーインタビューを行った方がいいこともあります。もちろん、開発担当者がインタビューすべきテーマもあります。ただ、「開発者や会社の意図とは違った使われ方が実はあった」ということに気づくなど、自分たちが推している強みと全く違うところに実は価値が存在する可能性があるときもあるでしょう。それを発見するにはより幅広く、それほどプロダクトへの思い入れが強くない社内のメンバーに話を聞いてきてもらうこともよい方法です。