プロダクトに関わる社内のミーティングに、普段開発に携わっていない人にときどき入ってもらうことも、違う視点での気づきにたどり着くのによい方法でしょう。社内であってもほとんどプロダクト開発にタッチしていない人に、プロダクトの話をじっくり聴いてもらうためには、開発チームの中では暗黙の前提として当たり前だったことでも、もう一度ゼロから説明する必要があります。それを説明しているうちに、本来進むべき方向から違う方へズレていたということに、説明している側があらためて気づくようなこともあります。

そういう意味で、事前の思い込みや関係性がない相手に聴いてもらうことや、利害関係があったとしても聴くスキルを持つこと、聴く態度に気を付けるようになることは、大変重要です。何も知らずに対話をしていたときと比べると、はるかに有用な情報や、思い込みを超えたところにあるチャンスに気づくことができるようになるからです。

エール取締役 篠田真貴子氏
 

わかってくれない、買ってくれない人の話にこそ“聴く耳”を持つ

私自身にも心当たりがあるのですが、自分が思いついた戦略があるときには、それに集中しているがゆえに視野がすごく狭くなっていて、それ以外の意見が受け付けられなくなっていることがあります。こうなると、たとえば外部の方とディスカッションして「こういう可能性もあるのではないか」と指摘されても、「この人はうちのプロダクトのことなど全然わかっていない」と“聴く耳”を持てません。

ところが、そのまま連絡を絶って数カ月が経過したときに、「ああ、あの時、あの人が言っていた通りだ」というタイミングが訪れることは、結構あるのです。

「この人はわかっていない」と思ったときは、たいてい相手の話を聴くことができていないときだと肝に銘じましょう。相手に対して「わかっていない!」と思いながら、自分の思考を切り替えるのは心理的なハードルが大変高く、難しいことではあります。ただ、このことを知っていれば、少しは落ち着いて話を聴けますし、多少客観的になれるかと思います。

少なくとも、「わかってないなあ」と思ったことをしばらくの間ちゃんと覚えておくことで、「あの人が言おうとしてくれたことは、本当はなんだったのか」と後ほど振り返ることができます。もう一度、意図を聴きに行くこともできます。それだけでも、プロダクトに対する大きなヒントをつかむ機会につながるでしょう。

もう少し一般化して、話を進めましょう。プロダクトをわかってくれない人、評価してくれない、買ってくれない相手というのは、自分とは価値観が全く違います。ですから、そういう人の話をじっくり聴くことは、非常に難しいと思います。