しかし、会社やプロダクトづくりのチームという観点から見たときには、そういう価値観が違う人の話こそ、なぜそう言うのか、意図や背景を知った方が参考になります。

開発者本人がそういう意見を直接耳に入れるのは、やはり“耳が痛い”もの。もしそういった意見を聴くのであれば、時間があって自分が落ち着いていて、広い心を持てるような時の方がよいでしょう。あるいは、そこまで強い思い入れをプロダクトに対して持っていないメンバーが聴く、といったことが結構大事なのではと思います。

聴くことは「コントロールを手放す」ことではない

この記事の読者の中には、SaaS製品を開発・提供している企業の方もいらっしゃると思います。顧客の声をどう聴くかということについては、日々、頭を悩まされている方も多いのではないでしょうか。プロダクトがなかなか普及しないというシチュエーションで、顧客の声を聴くことは本当に難しいと思います。なぜなら、会社としては会社の都合があり、顧客の声は大切だとわかっていても、「今月の目標はあと何件で、ここでアップグレードして欲しい」といった自分たちの側の都合がちらつくわけです。

しかし一方で、だからこそ聴くということはとても大事なのです。

私が取締役を務めるエールでも、SaaSではありませんがBtoBでサービスを提供していますので、営業チームが顧客対応を行います。手前みそになってしまいますが、その「顧客の話を聴く」という部分では、どのメンバーも相当「聴いて」いると思います。

一般には、顧客からひと通り話を聞いた後は、「つまりこういう課題があるということですね」などと、自社のプロダクトの機能になぞらえて、まとめにかかりたくなるものです。ところが、エールのチームではそこからさらに「ここまで話をうかがってきましたが、あらためて御社の課題は何ですか?」と深掘りしていきます。

また商談の初めに「今日は1時間お時間をいただいていますが、今日はどこまで話が進めばよいと思われますか?」「今日の1時間を、○○さんはどういうふうに使いたいですか?」といったことを先に質問するなど、一見コントロールを手放しているかのようなやり取りをすることも多々あります。ところが、実際にはそれによって顧客の本当の声を聴くことができ、顧客へのより深いアプローチが可能になる部分が生まれているのです。

私たちは、「聴く」ということは「話す」ことと違って「コントロールを手放す」ことだと思い込んでしまいがちです。ですから、営業に行くと「この1時間の中で、このクロージングまで持っていくぞ」と考え、話を進めようとします。大きな会社などでは商談のひな形を使って、最初の10分はクライアントの話を聞き、次の5分でこちらのプロダクトの説明をして、その後の5分で質問を受けて……といった具合に時間割まで決めて行くところもあるのではないでしょうか。