しかし、それをやればやるほど、顧客の本当の声を「聴く」ことからは遠ざかります。逆説的ですが、実は「聴くことによってコミュニケーションの質はいかようにもコントロールできる」のに、それを手放してしまっているのです。

「聴いてもらえた」顧客は自分ごととしてプロダクトに関わってくれる

もちろん、ただ話を「聴けばいい」というものではありません。そこまでの対話の文脈に依存する部分も大きく、単純にやり方だけをマネしても、うまくいかないでしょう。ですが、顧客の話を聴くことで何が起きるのかを知ることで、聴くことの本質が見えてくると思います。

顧客の話をじっくり聴くと、顧客が自分でもまだ意識していなかった、言葉にしきれていなかった課題が、顧客の側から出てきます。実はそれこそが、プロダクトやサービスの提供者にとっては「宝」です。

通り一遍の対話で出てくるような言葉なら、アンケートを書いてもらっても同じ結果を得られるでしょう。でも、それでは相対して話をしている意味がありません。対面でも、オンラインでもよいのですが、生身の人間同士が対話することの意味とは、話し手が「自分でも気が付いていなかったような課題を発見できた」「課題を解決する糸口を自分で見つけられた」と思ってくれること。営業シーンにたとえるなら、話を聴いたことによって顧客の方から進んで稟議書を書いて、導入してくれるようなシチュエーションかもしれません。

話を聴いてもらうことによって、自分で答えを発見すると、顧客としてはサービスやプロダクトを使いたいというモチベーションが上がります。それを成功イメージととらえれば、営業やカスタマーサクセスのあり方、考え方も変わってくると思います。つまり、カスタマーサクセスとはプロダクト提供者側が顧客にサクセスの仕方を「教えてあげる」ことではないのです。顧客に課題を発見してもらって伴走すること、「顧客がサクセスを見つけること」が、プロダクトの成功イメージと重なっていけば、そのプロダクトはきっと多くの人に愛され、使われるものとなっていくはずです。

顧客は話を聴いてもらいたがっています。「聴くカスタマーサクセス」がこれからのプロダクトづくりではスタンダードになっていくのではないでしょうか。顧客の方から「うちの会社ではこうやって使ってるんだよ」と教えてもらい、自分ごととしてどんどん使ってもらう。たとえそれが開発者にとっては意図していなかった使い方だったとしても、長期的にはその使い方こそが、次の機能開発のネタになるかもしれません。