それまでは100%自社生産で「自分たちが製造したダンボールをECサイトで売る」構造だったが、そこからはかつての能登紙器のような全国の工場との連携を強化。各社の特徴を踏まえつつ、稼働していない空き時間をうまく活用することで、さまざまな商品を安く生産できる仕組みを作った。

現在はタッグを組む工場が100社を超えており、このネットワーク自体がダンボールワンの事業における強みの1つになっている。

現在のダンボールワンのビジネスモデル
現在のダンボールワンのビジネスモデル。ラクスル2022年7月期第1四半期決算説明会資料より

ビジネスモデルの改良と並行して、人を大量に採用しなくても継続的な成長を見込める体制を整えるべく業務のIT化や自動化にも取り組んだ。テクノロジーの投資に関しては、サイト上でダンボールのデザインを簡単に変更できるツールの開発など、ユーザーの利便性が高まる仕組み作りも強化した。

辻氏がこだわったのが、「究極的にはパソコンがまともに使えない人であってもデザインができる仕組みを作ること」だ。ツールの開発にあたっては顧客の中でもパソコンを使い慣れていない人のところへ積極的に足を運び、どのような設計であれば使いこなせるか、画面を一緒に確認しながら何度もヒアリングを重ねた。

サービス上で「業界の言葉を極力使わないようにしている」のも、誰でも簡単に使えるようにするため。たとえば「A式のダンボール」といっても、なじみのない人にはそれがどのくらいのサイズを指すのかがわからない。そこでイメージが湧きやすいように「みかん箱タイプ」と表現を変えた。

材質に関しても「K5」や「C5」といった専門用語を使うと混乱を招く原因になるので、「60サイズであればこの材質、80サイズであればこの材質」といったかたちで最適な条件を提示し、必要以上にユーザー側に選ばせない工夫もした。

このようにサービスを磨きながら、広告への投資もそれまでの10倍ほどまで増やした。

エクイティでの調達は一切しなかったにもかかわらず、そこまで攻めの投資ができたのは銀行からの融資で調達していたからだ。その点に関しては「会社としては社歴が長くて金融機関との関係性もあったため、(通常のスタートアップと比べて)デット調達がはるかにやりやすかったことも大きかった」と辻氏は振り返る。

その後も事業の成長は留まることなく、2019年7月期の売上は22億円を超える規模になっていた。

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順調に事業拡大を続けていたダンボールワンにとって、2020年は大きな変化の年となった。

多大な影響を受けたのが新型コロナウイルスだ。2020年3月からテレビCMを実施して一気にプロモーションを強化したことに加えて、巣篭もり需要の増加でEC市場が伸びていたこともあり、昨年対比でも2倍ほどのペースで事業が成長していたという。