しかしそれもそのはずで、オペレーションやビジネスモデルが安定しないからこそ、スタートアップでは変化のスピードが激しく、組織の状況がすぐに変わってしまいます。例えば採用で「こういう人が欲しい」と狙いを定めて活動していても、採用完了までにはそれなりに時間がかかります。条件に合う人を探しているうちに状況が変わってしまって、「その採用ストップ!」となることも多々あります。

こうなってくると現場の人たちは、「次は何をすべきか」をキャッチアップするのに必死になり、「そもそも我々は何のためにこれをやっているのか」「自分はなぜここで働いているのか」といったことがだんだん混乱してきてしまうのだと思います。

この状態を放っておくと、離職につながることもあります。特にスタートアップは人材の流動性が激しく、優秀な人材は取り合いとなりやすい環境にあります。働く人が、より自分にとって身を投じる価値のある事業へ流れていってしまうのもわかります。

経営者にとっては驚くような離職が起きることも、スタートアップではしばしばあります。これは、事業の目標となる“北極星”は決まっていても、そこを目指す際のルートが常に変わるからです。オペレーションや組織が固まっていないということは、情報の伝達経路が定まっていないということでもあります。トップが、状況に応じて思い切って判断したことの意図が、極めて伝わりにくい構造になりやすいのです。

老舗企業における「変化になかなか対応できない」という課題とは性質が逆ですが、スタートアップにおいても「トップの意図が伝わらないために、現場の人がうまく動けない」という点では、実は同じことが起きているわけです。

「1人1人の負荷が高く、時間がない」からこそ1on1が必要

スタートアップの課題としてもう1つ、「仕組みができあがっていないために1人1人の業務負荷が高い」という点があります。つまり、誰もが大変忙しい。そこで「忙しくて1on1の時間が取れない」ということが起こりがちです。

特に現場では、会社へのコミットメントが強い人ほど「30分あるなら商談をもう1件こなしたい」「もう1本電話をかけたい」「コードをもう何十行か書きたい」と、1on1に時間を取りたくない力学が働きやすくなる面があるかもしれません。

しかし、だからこそ1on1が必要なのです。たとえば、今までトップが「右」といっていた会社の方針が「左」と急に変わったときには、やはりみんな心情的にはモヤモヤします。それが「もうついていけないから辞める」となるきっかけにもなりやすいのが、スタートアップです。そんなときに、とにかく定期的に話をする場があるということが大切です。