なぜ右と言っていたことを急に左と反対のことを言うのか。その意図は何か。「そういう会社でしたっけ」といった心情を現場の人から吐露してもらって、もう一度、トップの意図とつなぎ合わせ、接続し合う機会として、1on1という場は非常に大事になります。

それも、心情的なハレーションが起きてから話し合いの場を持ちましょうといっても遅いことが多い。だからこそ、30分といわず15分でよいので、とにかく定期的に1対1で話をすることを習慣づけしておくことをおすすめします。一見、真逆の方針変更に見えることでも、その背景の理解の糸口をつかむきっかけとなります。

また「心情的に付いていけない」となる一歩手前で、部下の言うことをひとしきり上司が聴けば、少し落ち着くという効果もあります。いずれにしても、接点を持ち続けることがとても大切です。

スタートアップでは、組織や環境が安定していないために、意見の対立があちこちで起きやすい傾向もあります。メンバー同士が見ているものの違いや、ちょっとしたタイミングの違いによって、ものすごく判断が変わってくるので、あちらこちらで対立が起きやすくなるのですが、これは当然のことです。

そんな時には、「みんながこの事業を成功させたいと思っている」「世の中にインパクトを出したいと思ってやっている」という意図はそろっているということを、丁寧に確認していかなければなりません。1on1は、その「意図の確認」をする場でもあります。そこを忘れてしまうと、忙しさに紛れて何となく1on1の実施が後回しになり、「気づけば3カ月話していない」ということになりかねません。

スタートアップにおける1on1がうまくいかなくなる理由の中でも大きな1つが、この忙しさです。そして「意図の確認」がうまくいかなくなると、思った以上に簡単に組織の崩壊につながることもあります。時間は短くてもよいので、とにかく頻度は維持すると心掛けることが、スタートアップにおける1on1実施のコツと言えるでしょう。

私が今、関わっているエールは、企業向けに外部人材によるオンライン1on1を提供しているスタートアップです。それもあって、社内での1on1は、とても身近なものとして日常に取り入れられています。時間の長さは30分から60分、頻度も毎週、隔週から月1回までさまざまですが、代表の櫻井さん(代表取締役の櫻井将氏)がメンバー全員と定期的に1on1を実施し、私も業務で関わるメンバーと、先々まで定期的な時間を設定しています。メンバー同士でも気軽に「ざっくばらん」という名前の1on1の時間を作っています。これが社内の情報共有や、お互いの様子を知るためだけでなく、自分の状態や、自分の「聴き方」を振り返る大切な機会になっていると感じています。