エール取締役 篠田真貴子氏
 

スタートアップの1on1で「聴く」ことにはどんな効果があるか

成熟企業と同じく、スタートアップでも、1on1において「聴く」ということは大切です。その理由はいくつかありますが、そのうちの1つがスタートアップが「非常に厳しい環境にある」ということです。

スタートアップでは、短期間に業績を2倍、3倍に伸ばすことが求められ続けます。メンバーも厳しいことを知っていて飛び込んできてはいるのですが、やはり「半年で2倍」などといった目標を目の前にすると、ちょっとしんどく感じるのではないでしょうか。対する上長も、「本当は部下をケアしなければいけない」とわかっていても、自分も余裕がなくて厳しいことを言ってしまうというサイクルになりやすい。そんなときに「聴く」スキルが上司の方に身に付いていれば、高い目標を維持しながらメンバーの不安や心配を解消できる可能性が高くなります。

このときの「聴く」というのは、メンバーの言いなりになったり、迎合して目標を下げたりということではありません。エールを導入したあるスタートアップ企業では、そのことをリーダーの方が理解するようになり、目標は目標として掲げつつ、メンバーからの「この目標はきついですね」といった言葉も、「どの辺が気になる?」「どの辺が引っかかってるの?」と、きちんと聴くことができるようになったそうです。

きちんと聴いてもらえると分かればメンバーも、目標に対して心配な点や実現できなさそうな点を具体的な課題として挙げるようになります。最終的にその組織は意思疎通が良くなり、メンバー自身もがんばれるようになったといいます。今までの「いいからやれ」というコミュニケーションのかたちではなく、チーム全体の力が上がるかたちにリーダーシップのスタイルが変化していったのです。

もうひとつ、聴くことがスタートアップにおいて大切なのは、聴かれた側がじっくり話しているうちに考えが進み、言葉になることで、それ自体が経験となり、学びとなるからです。メンバーが考えを言葉にするようになると、リーダーとの視座もすり合ってくるようになります。

スタートアップを創業するような方は、世の中の標準からいえばかなり優秀な方が多く、その分、正論であってもメンバーにとってはピンとこなかったり、抽象度が高すぎたりすることがあります。トップが「毎月言っていることだから、そろそろメンバーも理解してくれただろう」と思っても、みんなはトップが期待するほどにはわかっていないケースや、トップ直属のメンバーまでは目線が揃っても、その人たちがさらに下のメンバーへ伝えようとすると、理解が進まないということもあります。