このように、従来のネットワーク効果の定義は現実世界のインターネットサービスで起きていることを正確には表せていない。ましてやスタートアップが自社の成長に役立てられるフレームワークにはなっていないのである。

ネットワーク効果の理論のヒントは生態学にあった

では、もっと的確な説明はないのかと考えたところ、ネットワーク効果を説明する上でぴったりの理論が生態学にあったとチェンは説明している。それは「アリー効果」という、ミーアキャットやイワシなど、群れで暮らす動物はある程度の個体数がいると生存に有利になる現象を示す理論だった。

生態学の教授であるウォーダー・クライド・アリーは、1930年代に発表した論文の中で、群れで暮らす動物の個体数が増えやすくなる「アリー効果のしきい値」があることを明らかにしている。

動物は群れることで天敵から身を守り、群れの安全を守っている。閾値を超えるほどの個体数がいれば、群れの安全を守りやすくなり、多少天敵に襲われても個体数が劇的に減ることはない。しかし、このしきい値を下回る個体数しかいなければ群れの安全を守りにくくなり、個体数が減るという悪循環に陥る。

インターネットサービスでもこれと同じことが起きるとチェンは説明する。ユーザー数がある転換点を超えると、例えばメッセージアプリなら話したい人とすぐに連絡がつき、フリマアプリなら欲しい商品が見つかって、ユーザーはどんどん利用するようになる。一方でユーザー数が転換点を超えられなければ、話したい人や欲しい商品がみつからず、サービスから離脱してユーザーはみるみる減ることになる。

けれど、しきい値を超えたからといって、群れが永続的に成長できるわけではない。特定地域の食糧や資源は限られているので、群れの大きさには上限があるのだ。これは「環境収容力」と生態学では呼ばれている。

ネットワーク製品でも同じだ。ユーザー数も最初と同じ早いペースで成長し続けられるわけではない。市場の飽和やスパムの発生、マーケティング効果の減退といった壁にぶつかり、成長スピードは必ず減速するのである。ただし、ネットワーク製品ではこれに対抗する施策でユーザーの収容力を高めることはできる。

アリー効果、ならびにネットワーク効果を図で表すと全体像がつかみやすい。

コールドスタート理論の5ステージ『ネットワーク・エフェクト』(日経BP)P.55より引用
コールドスタート理論の5ステージ 『ネットワーク・エフェクト』(日経BP)P.55より引用

「アリー効果のしきい値」は「転換点」に、「環境収容力」は「ユーザーの収容力、天井」とビジネス用語に置き換えているものの、「根本にある法則は一緒だ」とチェンは説明する。