確かにビジネス的な側面で見れば、ビジネスセクターの人たちの方が優れているポイントがあるかもしれない。けれども、ソーシャルセクターの人たちは、また違った側面で優れているわけです。例えば、課題を抱えた人に寄り添って、その人の心の叫びを、プライドを刺激しないような方法で分かち合いながら、自己決定を大切にしてもらいつつ導いていく。

ビジネスセクターのやり方を乱暴に言うと、「困っているならば、そこにニーズはある。じゃあ、これをどうぞ」と商品・サービスを提供しようとする。でも社会課題というのは、そんなにシンプルではありません。複数の課題が絡みあったり、ニーズが流動的だったり、そういう中で、相手を一人の人格として、自分と変わらない人間としてまなざしながら、課題を解決していきます。これは、「ソリューションを当てはめます」という言葉とは違う次元のところで繰り広げられるコミュニケーションです。

ともすれば、「ターゲットになる困窮層はここなので、このソリューションが当てはまります」といった図式で描きがちですが、そんなことではない。僕はよく「現場に出よう」と言いますが、現場に出ると、自分の薄い認知の殻が破れて、より重層的で立体的で深みがある人物像や、社会課題における被害者像が見えてくるんです。現場に出ることがアンラーンのいい手段であり、ラーニングのいい手段でもある。両方の意味合いがあると思っています。

馬田:現場での具体的エピソードについて、お聞かせいただけますか。

駒崎:例えばフローレンスには、生活に困難を抱える家庭への「こども宅食」という事業があります。これは、ただ食品を届けるだけではなくて、食品を定期的に届けることで信頼関係を築き、その中で話してくれる困りごとや悩みを、解決につなげることを目的としています。例えば「実はDV(家庭内暴力)をされている」という言葉を拾うことができたら、DVセンターにしっかりつないで、救済に向けてすぐに動くイメージです。

生活に困難を抱える家庭への「こども宅食」 画像提供:フローレンス
生活に困難を抱える家庭への「こども宅食」 画像提供:フローレンス

配達業務は、買い物弱者の方に寄り添う宅配サービスを行っている、ココネットさんにお願いしていますが、この事業を始めた際、僕も配達スタッフのユニフォームを着て、各家庭を訪問しました。ある日の配達先は、東京・文京区のマンション。古いけれど作りのいいマンションで、困難を抱える家庭が住んでいるとは考えにくい構えでした。けれども、一歩家の中に入ると昼間でも真っ暗。要は、電気を使っていなかったわけです。