——最後にスタートアップ、アカデミア、エアラインの各視点から、今後の取り組みを進めていく上での展望を教えてください。

舩井:実生活にまで温暖化が影響を与え始めている中で、燃料を非常に多く使うビジネスである航空業は、環境への配慮や脱炭素に本気で取り組まなければマーケットから退場させられてしまうでしょう。エアラインとしては少しでも消費燃料を削減していかないと、今後生き延びられない。今回の取り組みのように協業を通して知見をいただきながら、カーボンニュートラルを完遂しなければならないこととして進めていきます。

伊藤:エアラインや航空管制機関、エンジニアは、それぞれの持ち場で最適化に尽くしているのに、全体で見るとなぜかうまくいっていません。局所最適に陥っていて、全体最適になっていないのです。ゲーム理論で言うと、「非協力ゲーム」(プレーヤーが提携しないゲーム)みたいなものになっていて、それを協力ゲームにしていかなければなりません。ですので、まずは業界の中の人たちを結びつける自動化システムの設計や実装を目指していきたい。そして、この分野はまだ新しいので、体系的手法を生み出し、社会システムに展開できるよう、発展させていきたいですね。

田中:航空分野ではいろいろな研究が行われ、アイデアもいろいろあるのに、なかなかトライアルや実用にまで至らないのが現状です。果敢に挑戦していくことが使命であるスタートアップだからこそ、優れたアイデアや研究成果を通してエアラインやアカデミアを橋渡しできる立場にあると思います。

エアラインは航空機の運航を行うビジネスですが、同時に乗客、乗員、機材、荷物などを「動かす」ことがその根本にあります。AIやマシンラーニングなどテクノロジーを活用して、これまで人間が調整していたそれぞれの複雑な動きの連携をいかに最適化していくか。それがエアラインに求められる究極の課題だと思っています。私たちはこの最適化による航空業界の脱炭素化を社会に実装できるように、今後もチャレンジしていきたいです。

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スタートアップ、アカデミア、エアラインが、航空業界の燃料消費削減を目指して取り組むプロジェクト。FPA降下の導入によって、1フライトあたり約200ポンドの燃料消費が抑えられるというそのポテンシャルは、今後脱炭素が喫緊の課題となっている航空業界の希望の光となり得るだろう。その実現は、立場の違う3者がつながってこそ。スタートアップを起点に小さなコミュニティから始まった燃料消費削減プロジェクトが、世界の航空業界の脱炭素化の一助となる日は近い。