海外の工場は「サンプル」だけは
完璧に仕上げてくる!?

村井 確かに経費は抑えられますが、工場の技術レベルを高めるという点での苦労も大きかったのではないでしょうか。

安本 ええ、いつもサンプルだけは完璧に仕上がってくるんです(笑)。サンプルが良くても、結局やり直してもらうことがいまだにありますね。大量に発注しますから、やり直しが発生すれば工場の負担も大きくなってしまう。

村井 工場との信頼関係が非常に大切になってきますね。

安本 中国の工場と取引し始めたころは、何万枚という大量発注ができなかったので「別注」という形で注文しました。それが徐々に発注量を増やしていったということです。そうして取引を重ねる中で、信頼関係ができていくわけですね。今後も自社の工場を持つ可能性はありませんので、いいオーナーと出会えるかどうかが重要ですし、年間で生産ラインを抑えるといった今のような契約ができるようになるまで、信頼関係を築くのにやはり何年もかかりましたね。

村井 そもそも工場を持たない「ファブレス」の発想はどこから生まれたのですか。

安本 かなり前からギャップ社など既に先行している会社があり、それを参考にしました。香港のカジュアルファッションで人気の高いジョルダーノは、品質が良くリーズナブルな商品を販売していますが、柳井社長はジョルダーノのオーナーから中国の工場に発注していることを聞いて、自分にもできると確信したそうです。

村井 今の時代、能動的な経営が求められるわけですが、ファーストリテイリングの場合は、ユニクロ、ジーユー、セオリー、コントワー・デ・コトニエ、プリンセス タム・タムと複数の事業を展開しています。やはり「強い会社」をつくるには、ビジネスのラインは分散したほうがいいのでしょうか。

安本 そうですね。1本足打法よりは3本足打法で、2つ目、3つ目の事業を持ってバランスが取れるといいと思います。ただし、やり過ぎは本末転倒。主要な事業を盤石にしたところで、他の事業にも力を入れていく。どんな事業でも3年続けて、その国で1番にならなければやめるとか、基準を作って取り組んでいる会社のほうが私はいいと思いますね。

村井 ファーストリテイリングは一時期スポクロやファミクロ、野菜事業にも取り組んでいましたね。そういった事業経験を経て、今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。

安本 これまではカジュアルウエアを基本としたユニクロを柱としてやってきましたから、コンテンポラリーファッションのセオリーを買収した頃から今後どこまで洋服事業の幅を広げるかが課題になってきました。
   ユニクロはジーンズを得意として力を入れてきましたし、アメリカのジーンズ会社を買収したので、そのメリットを活かしてもっと高い品質の製品を広げていきたいという思いはありますが。