日本は、100年、200年と続く
老舗企業の多い国

安本 それから、会社を「強く」するということは、会社を「継続」していくということです。会社というものは、成長しながら継続していかなければ意味がありません。つまり、今のままでいいという経営はありえない。

 日本は、100年、200年と続く老舗企業の多い国です。最近では、10年説、20年説、30年説などと言われていますが、生き残るためには、常に能動態で攻めていかなければならず、これがとても大変なことなのです。

村井 この不景気で赤字に苦しんでいる経営者も大勢いますよね。

安本隆晴(やすもと・たかはる)公認会計士・税理士。株式上場準備コンサルタント。1954年静岡生まれ。1976年早稲田大学商学部卒業後、朝日監査法人(現・あずさ監査法人)などを経て、安本公認会計士事務所を設立。1990年(株)ファーストリテイリング(旧・小郡商事)の柳井正社長と出会い、以降、株式上場準備コンサルタント・監査役として、同社の躍進を会計面から支えてきた。現在、アスクル(株)監査役、(株)リンク・セオリー・ジャパン監査役、(株)UBIC監査役、(株)カクヤス監査役、中央大学専門職大学院国際会計研究科特任教授でもある。著書に『熱闘「株式公開」』『「ユニクロ」!監査役実録』(ともにダイヤモンド社)、『数字で考えるとひとの10倍仕事が見えてくる』(講談社)、『火事場の「数字力」』(商業界)など。柳井正著『一勝九敗』『成功は一日で捨て去れ』(ともに新潮社)の編集にも携わった。

安本 電機メーカーなど下請けの中小企業は約4万社あるそうです。例えば、下請け工場では、大企業からの発注を受けて製品をつくっています。しかし、大企業が人件費の安い海外企業と取引したり、注文が突然来なくなるリスクはいつでもあります。注文が止まればキャッシュ・フローは固定費が出て行くばかりで、入金がなくお金が流れなくなる。数カ月後には間違いなく倒産してしまいます。

 そこで、自分たちの技術を他で応用できないものか、会社の強みをどうやって活かすのか、経営者は常に能動的に考えていく必要があるわけです。

ユニクロ商品は中国で製造
工場との信頼関係が良品を生む

村井 ユニクロは商品企画を自社で行い、実際の商品づくりは人件費の安い中国の工場に委託することでコストを抑え、利益の出る構造を確立していますね。

安本 工場に発注する時期を工夫していて、販売時期から逆算して6カ月~1年前には注文を出します。この注文時期と大量発注の2点から、より大きなコストダウンが図れます。
   工場側にとっても製造期間に余裕があるので、スケジュール調整しながらつくれるメリットもあるわけです。

 ちなみに、よくファストファッションとして海外のZARAやH&Mなどと一緒にされるんですが、ユニクロからはファストファッションだとは一度も言ったことがないんですよね。ファストファッションは最新の流行を取り入れて短いサイクルで製造・販売しますので、半年以上前から発注するユニクロとは構造的に全く違うんです。

村井 流行というよりは素材の機能性にこだわり、カラーバリエーションなどを充実させてオリジナル性を打ち出している。ユニクロの高品質・低価格を支えているのが自社で工場を持たない「ファブレス」の仕組みになるわけですが、品質管理においては高い技術を持った職人さんたちによる「匠チーム」の存在も欠かせませんね。

安本 その通りです。日本には繊維産業の伝統がありますからね。退職者を募って、染色や縫製など服づくりのプロに現地での技術指導をお願いして基礎をつくりました。工場のオーナーはタダで指導してもらえるわけですから、喜びますよね。そうした委託工場を時間をかけて増やしていったということです。