国内のM&Aを取り巻く環境がどのように変化しており、今後どうなっていくのか。日本のM&A市場について解説していく。

海外に遅れを取る国内スタートアップM&A、国も後押しへ

2021年4月に、経済産業省がまとめた「中小M&A推進計画」では、初めて「成長志向型」のM&Aについて言及があった。そこには中小企業の成長戦略の観点から、自社より大規模な事業者の豊富な資源を活用するための“ポジティブなM&A”が注目されている、と書かれている。

その背景には国の危機感もあるのだろう。実際、JETRO(日本貿易振興機構)が2020年にまとめた「世界の地域別スタートアップにおけるエグジット(イグジット)の傾向」を見ると、米国(90.2%)、東南アジア(93.2%)、インド(97.8%)と9割以上がM&Aであるのにに対し、日本は33.0%と圧倒的に少ない。GAFAM(Google、Amazon、Facebook​、Apple、Microsoft)など、世界的なテックカンパニーがM&Aによって成長を遂げているトレンドからは、だいぶ遅れている数値だ。

そういった背景もあり、それは経産省に限らずさまざまな省庁の政策には「オープンイノベーションを進めたい」という意向が見て取れる。さらにスタートアップ側も、M&Aへのモチベーションも高まりつつある。前出の数値では、M&Aでイグジットしない日本のスタートアップの割合は67%となっており、すべてとは言わないが多くのスタートアップはIPOによるイグジットを目指すことになる。

世界取引所連盟(WEF)によると、日本の上場企業数は3700社と世界で最も多い。しかしながら、市場からの評価が低く、上場時が株価のピークとなってしまう「上場ゴール」と揶揄(やゆ)される企業もあり、小規模な上場は国際競争力を失わせるという指摘もある。

実際、時価総額300億円以上で上場しなければ、機関投資家の投資を受けづらい。そうなると上場後の成長が描きづらいことは、ミクシィ元代表取締役で現在投資会社シニフィアンの共同代表を務める朝倉祐介氏も「ポストIPO問題」として語っている。

Photo:TolikoffPhotography/gettyimages
Photo:TolikoffPhotography/gettyimages

未上場スタートアップの「成長手段」としてのM&A

そうした背景がありながらも、ここ数年でスタートアップも“成長するため”にさまざまな手段を模索している。かつてはオーナーシップを重視し、成長のために株式を手放す選択肢は一般的ではなかった。しかし、事業の成長や社会的なインパクトを重要視する起業家が増加する中、「M&Aでも良いのではないか」と意識が変化してきている。