2段階イグジットは売り手と買い手の双方にメリットがある。売り手側はIPOを目指すので、上場想定でのバリュエーションでM&Aができる。ソラコムの場合、KDDIにM&Aされた当時の契約回線は約8万回線で、グローバル展開とは程遠い位置にいた。売上前提のバリュエーションロジックでは、到底200億円という値段はつかなかっただろう。

一方の買い手側にもメリットがある。ソラコムの場合、売却ゴールではなく、起業家の玉川氏も株式を持ち続けている。株主は利益を確定するまで辞めることはほとんどないし、信頼関係や共創関係が築けていれば大きなシナジーを生み出し続けやすい。これで、M&A後の事業リスクを大きく減らすことができる。

SaaS企業が牽引する市場で、M&Aは「必修科目」になる

ここまで、主に売り手側と買い手側のトレンドを見てきたが、最後に市場について触れておく。市場では間違いなくSaaS企業に注目が集まっている。海外ではプライベート・エクイティ・ファンドがこぞってSaaS企業に投資しているし、日本国内のSaaS市場も2024年に1兆円規模になる、という試算もある。

SaaS市場への注目度が高まったことで、時価総額が上がった上場済みのSaaS企業は資金調達がしやすく、その資金を使って新たにM&Aを行うことも可能だ。実際そうした流れが出来つつある。例えば、マネーフォワードがSaaS情報サイト「BOXIL」を運営するスマートキャンプ、freeeが電子契約「NINJA SIGN」を運営するサイトビジットを子会社化するなど、こうした流れはさらに加速していきそうだ。

このM&Aのポイントは、もともとスタートアップだった企業(マネーフォワードやfreee)が買い手だからこそ、スタートアップのバリュエーションロジックで行われていることにある。前者の買収額は約20億円、後者は約28億円だが、いずれも買収当時は赤字であり、昔であればこれほどの価値はつかなかったと考えられる。SaaSを中心にスタートアップの成長戦略を熟知した企業が買い手側の立場になる、という市場の循環が起きている結果と言えるだろう。

このトレンドが続くならば、上場企業も今まで以上にM&Aに資金を投じることが予想される。スタートアップに対してのノウハウも蓄積されてきているほか、上場企業がかつてのスタートアップであり、M&Aに積極的であることも珍しくなくなった。その反面、スタートアップ側も競争が激化している中で、プロダクト一本で勝てる、という時代は終焉を迎えつつあると言える。