例えば2021年4月、YouTuberをはじめとするクリエイタープロダクション事業などを手がけるBitStarがD2Cブランドを手がける「FASHIRU(ファシル)」と「​JISTORY(ジストーリー)」の2社を買収した。インフルエンサーやD2C領域のスタートアップはすでにレッドオーシャン化しているので、M&Aを活用することで頭ひとつ抜きん出た存在になろうとした結果だと筆者は考えている。

市場の課題が明確な領域は、スタートアップが乱立しやすい。その結果、競争が激化し、純粋なプロダクトの力のみで市場を取りに行くことは難しくなっている。

例えば、HRTech領域では採用管理システムを手がけるスタートアップのイグナイトアイとインフォデックスがThinkingsという新社名のもと経営を統合。大型の資金調達を行っているHERPやHRBrainなどの競合に対して採用管理システム市場のシェアを取りにかかった。また、オンライン予約システムを持つクービックは、ECサイト構築や決済を手がけるヘイの傘下に入ることでより幅広い業種のデジタル化を目指すなど、スタートアップ側もM&Aを軸にした高度な経営戦略を取るようになっている。

Win-Winの関係が作りやすい、M&Aからの子会社IPO

さらに、M&Aで大企業の傘下に入ったスタートアップがIPOを目指す「2段階イグジット」の流れも今後増えてくるだろう。冒頭に紹介した成長志向型M&Aの延長線上にある話だが、起業家は大企業のリソースを使って事業をグロースさせるため、株式の過半数を手放す。しかし、一定の株式を持った状態で会社に残り、一緒にIPOを目指す──それが2段階イグジットという方法だ。

例えば、IoTプラットフォームを提供するソラコムは、創業から2年半でKDDIに200億円で買収された。2017年の買収から3年でIoT向けデータ通信サービス「SORACOM Air」の回線契約数が8万回線から200万回線にまで伸びたことで、ソラコム代表取締役の玉川憲氏は「スウィングバイ・IPO」という言葉を使い、次の飛躍を宣言している。

ソラコムのサービスは2020年現在、約140カ国で利用可能となっているが、上場後もグループに留まり、さらなるグローバル展開を進めていく見通しだ。そのほかにも、ZOZOとyutori、ワールドとラクサステクノロジーズなど、子会社IPOを見据えたM&Aの数は着実に増えてきている。