総予測2024#61Photo by Masato Kato

通信会社にとって巨額の設備投資の負担は重たい課題だ。ソフトバンクはかつて、NTTドコモ、KDDIに次ぐ携帯キャリアの新規参入者として基地局整備に苦戦した経験を持つ。ソフトバンクの宮川潤一社長は、携帯事業の参入で財務が悪化する楽天グループの投資負担の軽減に、手助けを申し出ている。特集『総予測2024』の本稿では、その真意を直撃した。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

楽天の「設備投資」に協力しよう
昔はソフトバンクも苦しんだ

――楽天グループの携帯電話事業が苦戦中です。ソフトバンクも設備投資に苦しんだと思いますが、どうご覧になりますか

 楽天が提出した「(携帯電話が繋がりやすい周波数帯の)プラチナバンド」の基地局開設計画をみると、設備投資は544億円で、基地局の設置はわずか1万局程度で、寂し過ぎる計画です。

 最初は、われわれ(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに割り当て済み)のプラチナバンドを渡せというくらいの勢いで獲得に動いたのに、いざ確保すると出てきた計画がこれでは、国民の共有財産の電波が有効利用されなくなってしまう。

 とはいえ、楽天が財務的に厳しいのは分かります。基地局整備で最も資金がかかるのは鉄塔を建てることと伝送路を敷設することで、電源周りの工事も相当に時間がかかります。だから今のわれわれの基地局の場所や「バックホール」の設備を貸してもいいので、もっと基地局整備をしっかりやってほしいというメッセージを2023年11月の決算発表の会見で出しました。

 その後、両社の渉外同士で「本当に貸してくれますか」「はい、値段次第です」というやりとりはありましたが、具体的な話には進展していません。実際に要請があれば私はオープンです。

――ソフトバンクは、設備投資に苦戦する楽天に助け舟を出したということでしょうか。

 これは、決して助け舟ではありません。

 ソフトバンクも過去に「携帯がつながらない」「きちんと設備投資しろ」と厳しく言われ続けてきました。CTO(最高技術責任者)だった私が直接責任を負っていた仕事です。上司だった孫正義さんにも叱られ続けて、今になってようやくネットワークが評価されるようになってきた。

 楽天も、携帯キャリア(MNO)として割り当てられた電波にしっかり設備投資をして通信を繋がりやすくしてもらいたい。我々も苦しんだので、それをしっかりお伝えしたいのです。

 三木谷浩史社長は本当に立派な経営者。孫さんに近いものを感じます。だからこそ立派にネットワークを整備してもらって、その上で「楽天経済圏」と正々堂々戦いたいと強く思っています。

宮川社長は、携帯電話の繋がりやすい周波数帯を「プラチナバンド」と最初に名付けた携帯ネットワーク分野の第一人者だ。同氏が、楽天の投資負担の軽減に協力を申し出た真意は何なのか。次ページで、余すことなく語ってもらった。