ウクライナ戦争の終結を見据えて米国の実業家が東欧に押し寄せているという。特集『総予測2024』の本稿では、「欧州最高峰の知性」と称される、経済学者で思想家のジャック・アタリ氏が「米国はヨーロッパを弱体化させようとしている」と警鐘を鳴らす。また、2024年の米大統領選の予測とトランプ氏が返り咲く場合に起こること、イスラエルとハマスの戦闘について、見解を聞いた。(国際ジャーナリスト 大野和基)
米国はヨーロッパや日本を
対米依存させようとしている
――アタリ氏は2023年9月に「(ウクライナ戦争の終結を見据えて)米国の実業家や銀行家が最近、公共事業、エンジニアリング、水道、エネルギー、デジタル、電気通信、暖房、電気、建築などの企業を求めて、ルーマニア、ブルガリア、モルドバ、ポーランド、ウクライナに押し寄せ、できるだけ早く買収しようとしている」「このような事態を放置すれば、ウクライナを加盟国とするEU(欧州連合)の拡大は、EUの経済的、財政的、技術的、規範的な対米依存を加速させる」とコメントしています。米国はEUを依存させようとしているのでしょうか。
そうです。米国はまた、NATO(北大西洋条約機構)を通じてヨーロッパ大陸の防衛を完全に掌握することに固執し、ヨーロッパの人々が自分たちで自分たちを守る必要性に気付くのを妨げています。ヨーロッパは、軍隊も、産業も、不法移民からの保護も、主権の手段を全て奪われています。
この状況は少なくとも1945年からそうです。米国はヨーロッパを信頼できる同盟国と考えています。つまり素晴らしい友人と考えていますが、それだけではなく市場と見なしています。米国は必死にヨーロッパの自衛力を弱体化する状況をつくり出そうとしますが、それは武器や軍事コントロールにおいて米国に依存せざるを得ない立場にヨーロッパを置くためです。日本は状況が異なりますが、米国の狙いは同じです。
米国は建前上、民主主義の防衛のためだと言います。しかし、ヨーロッパを従属的なパートナーとしてではなく、“大人のパートナー”と見なすことが、米国の利益になります。大人のパートナーとは、他国に依存せずに、自国の国境、主権を防衛することができる能力がある、真のスーパーパワーを持っているということです。
だからここフランスでは、自国の核兵器産業をつくったのです。われわれは核兵器や原子力潜水艦を維持・持続するのに、米国に依存していません。そこは英国の海軍や陸軍と異なります。他のヨーロッパ諸国も自分たちが、米国に依存しないで、ヨーロッパの防衛システムに含まれた方がいいということを理解してほしいと思います。
いつか分かりませんが、ある日米国がヨーロッパから撤退することは確かです。「ヨーロッパはもはや米国の利益にならないから、ヨーロッパを排除する」と、米国の大統領が言うでしょう。それまでに米国の軍事システムに依存しない軍隊の統合をヨーロッパがしていなければ、リアルな敵国や仮想敵国から自国を守る者が誰もいない状態になり、手遅れになることを理解しなければなりません。
ドナルド・トランプ氏が大統領ならやりかねません。
次ページでは、2024年の米大統領選の予測と、トランプ氏が返り咲く場合に起こる事態、さらにはイスラエルとハマスの戦闘の行方について、ジャック・アタリ氏に一挙に聞いた。