戦時の商社#6Photo:Anton Petrus/gettyimages

ロシアによるウクライナ侵攻は、LNG(液化天然ガス)や小麦価格の高騰を招いた。商品価格の上昇とともに“爆上げ”したのが三菱商事や三井物産など総合商社の株価だ。歴史的に、商品の欠乏は商社の“稼ぎ時”なのである。しかし、商社の内実を取材すると、乱世という商機を逸しかねない深刻な問題が明らかになった。特集『戦時の商社』(全16回)の#6では、商社が陥りかねない落とし穴を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

ガス高騰で生まれたアジア10兆円の需要
最も潤ったのは商社ではなかった

 新型コロナウイルスの感染拡大を境に、商社のビジネス環境は一変した。パンデミックがもたらした半導体不足や、その後のロシアによるウクライナ侵攻が引き金になって供給過剰が供給不足に変わり、石油や穀物などの価格が高騰したのだ。

 そのインパクトは甚大だった。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の試算によれば、ウクライナ危機後の資源価格の高騰によって世界各国が上乗せして支払わなければならなかった液化天然ガス(LNG)の対価は2700億ドル(1ドル150円換算で40兆円超)、アジア各国だけでも同687億ドル(同10兆円超)に上った。

 値上がりは消費者にとっては「損害」だが、商社にとっては「商機」である。石油や小麦などの価格につられるように商社の株価は急上昇。三菱商事や三井物産が初めて純利益1兆円を達成するなど絶頂期を迎えた。

 供給過剰の時代は商社にとって冬の時代だったが、コロナ禍を機に、「中間業者がもうかる時代」が到来したのだ。

 しかし、商社には、せっかくのビジネスチャンスを取り逃がしかねない深刻な二つの問題がある。次ページでは、絶好調に見える商社の意外な死角を明らかにする。