戦時の商社#9Photo:Image Source/gettyimages

就活学生から大人気かつ業績が堅調な総合商社でも、毎年100人単位で離職者がいる。特集『戦時の商社』(全16回)の#9では、風通しの悪さ、やりがい搾取、まん延する大企業病への不満……。どんな好待遇でも退職をいとわなかった元商社社員などに本音を語ってもらった。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)

離職率は低い商社業界だが
毎年軒並み100人が去る現状

「住友商事は年間100人程度が離職していく」――。

 住友商事のある役員が打ち明けた。どうやらこれは総合商社全体に通じる話のようだ。

 丸紅は、自己都合離職者数や離職率(従業員に占める自己都合離職者の比率。定年退職は除く)を公表している。2021年3月期は100人、22年3月期は117人、23年3月期は97人が自己都合で離職。その間の離職率は3%前後となっている。

 三井物産の自己都合退職は21年3月期は72人、22年3月期は98人、23年3月期は80人で、その間の離職率は1%台だ。

 厚生労働省の21年雇用動向調査によると、産業全体の平均的な離職率は13.9%なので、丸紅や三井物産の離職率は国内企業においては低水準といえる。

 とはいえ、100人という数は決して少なくない。一体、何を思って会社を去ったのか。業界に思う部分について、商社関係者に語ってもらった。

【座談会参加者】
元住
…元住友商事資源・化学品部門中堅社員
元三菱…元三菱商事食品部門中堅
元五大…元五大商社エネルギー部門ベテラン
内定者…五大商社内定者大学生

――好待遇である総合商社を辞める人が毎年一定数いますね。

元住 知り合いの三井物産30代後半の社員の年収は2000万円。高いげたを履いたが故に、そのげたを脱げなくなっている人は多い。金銭が人生のバリューという人は商社から出られないと思う。問題は、本当にそのげたが自分の実力だと思えるか。そうでない人は、幸せに暮らせない。

内定者 給与を理由に商社を目指す学生は一定数います。自分も全く興味がないと言えばうそになりますが、賞与の桁を聞くとびっくりしますね……。

元三菱 しかし、(中堅社員以上では年間の賞与額だけで1000万円を超える)三菱商事ですら、100人とまでいかないけれど、毎年数十人が自らの意思で辞めていますよ。僕の場合、好待遇を捨てて独立するか迷いましたが、決断するならいましかないと思い、清水の舞台から飛び降りる気持ちで退社しました。

次ページでは、一流企業を去った元商社パーソンに、胸の内ややりがいを見失った経緯や悩みを語ってもらった誌面座談会をお届けする。