変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

生成AI時代に「若くして老害になる人」に共通する、決定的な特徴とは?Photo: Adobe Stock

経験だけが
すべてではない時代

 現代はデジタル技術の普及によって、さまざまな領域で情報の非対称性がなくなりつつあります。

 かつては情報の非対称性があったため、営業担当者が飲みニケーションによってお客さんとの関係性を築きつつ、情報を提供することに相応の価値がありました。

 社内においても、情報をテコにしてマウンティングする上司がたくさんいました。今でもそのような上司は残っているかもしれませんが、EメールのCC機能などによって情報の非対称性は解消されつつあります。

 また、生成AIを使用すれば世界中の情報を取り寄せるだけでなく、それらを自在に組み合わせることができます。イノベーションは異結合ともいわれますが、異結合において無類の強さを誇る生成AIを相手に戦えば、人間に勝ち目はありません。

バイアスで決めつける

 そのような時代において人間が価値を発揮するのは、独自の「問いを立てる」ことです。

 生成AIを使用すれば、品質の高いアウトプットを誰でも生成することができるので、新しく優れた問いを自らで立てられるかどうかが、極めて重要になります。

 今後、前例踏襲主義を貫く人たちは、若くして老害になってしまうでしょう。何らかの判断を求められたときに「過去はどうだったんだ?」「他社はどうやっているんだ?」という問いしか立てられない人たちは、組織変革の弊害にしかなりません。

 こうした人たちに共通しているのは、「昔はこうだった」「〇〇大学出身の人はこうだ」「〇〇人はこう考える」というバイアスで、いろいろな物事を判断していることです。情報の非対称性があった時代には、そのようなハイレベルの抽象化にも一定の意味があったのかもしれませんが、デジタル技術の発達によってそのような時代は終わりました。

バイアスを捨てるためのルーチンを持つ

 では、バイアスを捨てるためにはどうすれば良いのでしょうか?

 そのためには、人間は必ずバイアスを持つという前提に立って、バイアスを取り除くためのルーチンを持つしかありません。

 お腹が空いているときには料理店しか目に入らなくなり、新しい服が欲しいときには服の情報ばかり目に入ってくるのが人間です。人間は見たいものを見たいようにしか見ることができません。

 アジャイル仕事術における「引き算思考」は、バイアスを捨てるために極めて有効な方法です。過去にとらわれる足し算思考をやめて引き算思考を実践することで、バイアスを取り除いて新しいものの見方ができるようになります。

「アジャイル仕事術」では、引き算思考の具体的な実践方法以外にも、バイアスを捨てて老害になることを防ぐための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。