半導体の性能を高めてきた回路の“微細化”は一時、限界もささやかれていたが、近年、現行の技術の壁を打ち破る道が開けてきた。微細化に欠かせない製造技術「EUV(極端紫外線)露光」が一段と進化しようとしているのだ。特集『半導体 投資列島』(全9回)の#7では、にわかに脚光を浴びる「次世代EUV」に必須の装置や素材を供給する日本企業3社を紹介する。(経済ジャーナリスト 和島英樹)
微細化の壁を突破する「次世代EUV」
“35年に0.3ナノ”実現に日本が貢献?
半導体の性能を決める回路の“微細化”で、現行の限界を突破する「次世代EUV」に欠かせない技術や素材を供給する企業が日本にある。
半導体は回路の線幅を細くすればするほど性能が向上する。微細回路の形成で鍵を握るのが、“光”を使って半導体の基板となるウエハーに回路パターンを焼き付ける「露光装置」だ。この工程をリソグラフィーという。波長の短い、強い光を使うほど微細な回路を形成できる。
線幅が10ナノメートル(ナノは10億分の1)よりも微細な回路を形成できる露光装置の実現は不可能と認識されていた時代もあった。そんな大方の思惑を覆し、“10ナノ以下”に道を開いたのが、微細化をリードしてきたオランダの露光装置メーカー、ASMLだ。
ASMLは「EUV(極端紫外線=extreme ultraviolet)」という非常に波長の短い光を使う露光装置の開発に世界で唯一成功した。EUV露光は波長が13.5ナノのEUVを使う。微細化のレベルは世界最高水準である。
EUV露光を駆使した最先端半導体の回路線幅は、量産ベースでは世界最大のファウンドリー(半導体の受託生産)企業である台湾TSMCが2023年秋に出荷を開始した3ナノが最高水準である。その先の2ナノを実現させようと、世界の半導体メーカーやファウンドリーが開発を競っている。だが、3ナノから2ナノに移行するには技術的なハードルが立ちはだかる。つまり、EUV露光の技術的な限界である
一時は微細化の限界もささやかれたが、ここにきて、現行の技術の壁を打ち破る次世代EUVの道が開けてきた。
次世代EUVは、EUVを使うが、露光装置のレンズの性能を高めてより多くの光を集める技術である。レンズの明るさおよび解像度(レンズが持つ細部を表現する能力を示す指標)に関係する性能を示す指標を「開口数(numerical aperture、NA)」といい、この開口数を高めて、従来のEUV露光の限界を突破しようというわけだ。
この次世代EUVにめどが立ってきた。EUV露光装置の開口数は、現行世代では0.33だが、これを0.55まで高めることで、2ナノ以降の微細化が可能になる。
開口数で0.55を実現する次世代の露光技術を「High NA(ハイ・エヌエー)」と呼ぶ。NAからHigh NAに移行すると、露光装置の性能が格段に上がる。
例えば、レンズの解像度が1.7倍に上がることで、半導体回路の集積度は2.9倍に上がる。また、露光光量の削減、マスク(回路パターンを書き込んだガラス板)の枚数の削減も可能になるという。
High NAによって進化した次世代EUVは、半導体の微細化を当面持続させるとの見方が出ている。ASMLと密接な関係にあるベルギーの研究機関IMEC(アイメック)が公表しているロジック半導体の微細化ロードマップによると、35年に0.3ナノまでの微細化が実現すると予想されている。
ASMLは23年12月、初のHigh NA EUV露光装置を米インテルに出荷したと発表した。半導体に兆円規模を投資するインテルやTSMC、韓国サムスン電子という半導体業界の“世界3強”は、次世代EUVの争奪戦を繰り広げている。
こうした中、次世代EUVに関連する日本企業への注目度が一層高まっている。現行レベルを超える微細化はASML1社では実現せず、必須の技術や部材は日本が提供しているのだ。
次ページでは、次世代EUVに関連する技術と部材を供給する日本企業3社について、それぞれ強みとなるポイントを紹介する。