不況から立ち直った半導体市場は2024年に史上最高の売上高を見込む。空前の活況を見越して日本の半導体関連メーカーは設備投資を加速。国の巨額補助金も追い風になり日本列島各地で工場の新設ラッシュが始まっている。特集『半導体 投資列島』(全9回)の#1では、株式市場の評価にも直結する設備投資【71社・96計画】の全貌を明らかにする。(「電子デバイス産業新聞」特別編集委員 津村明宏)
半導体は2030年「100兆円」市場に
企業は25~26年を照準に投資加速
日本列島が半導体の設備投資に沸いている。自動車の電動化やAI(人工知能)の社会実装などをけん引役として、世界の半導体産業は2030年には100兆円市場(現在は約65兆円)へ拡大する可能性があると考えられており、業界各社の視線はすでに4~5年先を向いている。
日本政府の後押しも大きい。米国の政策の影響を強く受けた感はあるものの、新型コロナウイルスの感染拡大で巻き起こった半導体不足もあって、「国民生活や産業に不可欠な存在であるとともに、デジタル社会およびグリーン社会を支える重要な基盤」として半導体などを特定重要物資に指定し、安定供給体制の構築とサプライチェーンの強靱化を推進している。
これに該当する投資案件に多額の補助金を拠出し、30年には国内で生産した半導体の売上高を現在の3倍に当たる15兆円まで一気に引き上げていく目標を掲げた。
日本政府の本気度を誰もが強く認識したのが、世界最大のファウンドリー(半導体の受託生産)企業である台湾TSMCの誘致成功だ。熊本県菊陽町に日本の第1号工場を整備中で、この運営をソニーセミコンダクタソリューションズとデンソーが少数株主として参画するJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)が担う。
また、整備時期は未定だが、すでに熊本県に第2工場の建設を決定していることに加え、第3工場の建設計画まで取り沙汰されており、TSMCの対日投資は今後も長く継続する可能性が高い。
TSMCの第1工場への総投資額は9800億円で、日本政府がこのうち最大4760億円の工場の整備費用を補助する。第2工場にも、23年度補正予算案に盛り込まれた半導体生産体制強化のための補助金約1兆9800億円のうち、半導体の安定供給確保のために投じられる基金約5700億円から助成金が充てられる見込みだ。
国の巨額補助金も追い風になり、日本株市場でも半導体銘柄が急上昇している。24年初に日本株が連日、バブル後最高値を更新したのも、半導体関連の値がさ株がけん引したことが要因の一つだ。
半導体の設備投資や装置需要が回復してくるのは24年後半になってからとの見方が強いが、日本の半導体関連企業は需要爆発が想定されている25~26年に照準を合わせている。すでに全国各地で、工場や研究施設の新設ラッシュが始まっている。また、こうした企業の動きを受けて、株式市場にも投資マネーの流入が続く可能性が高い。
巨費が投じられ「シリコン列島」化していく日本。次ページでは、国内および海外の半導体関連企業が日本列島の各地で進める設備投資【71社・96計画】について、投資場所や投資額、国の助成額を一覧表で明らかにする。また各社のこの1年の株価騰落率も併せてまとめた。高騰した“勝ち組”企業や今は伸び悩んでいる企業もある。銘柄選びの参考にしてほしい。