稲盛和夫Photo:SANKEI

中学受験に対する熱がどんどん高まっていく昨今だが、「名門校に入れば子どもの人生は安泰」というわけではないことは、学術論文でも明らかになっている。また、中学受験に失敗したら「人生オシマイ」というわけでもないことは、「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏の人生が物語っている。(イトモス研究所所長 小倉健一)

「受験で名門校に入れば安泰」
…というわけではない理由

 中学受験をすることが「普通」になりつつもある現在、教育意識の高い親は子どもに、いわゆる「名門校」へ行ってほしいと思っていることだろう。名門校へ行かせたい理由には、さまざまあるだろうが、頭が良いクラスメートに囲まれることで、子どもの勉強への意識が高まることを期待している人もいるだろう。

 しかし、2022年に発表された論文『日本における「小さな池の大魚効果」 -高いレベルの学校で学ぶことは学力向上をもたらすか?』(五十棲浩二・伊藤寛武・中室牧子著)によれば、それはまったく違うようだ。

 同論文によれば、同級生から受ける影響は大きいものだが、実際にはその影響が良いものばかりとは限らないということだ。例えば、学力がもともと高い子どもは、学力の高いクラスメートと一緒にいるとさらに成績が上がるが、学力が低い子どもは、逆に成績が下がることがある。つまり、友達からの影響が良いか悪いかは、クラスの中で自分がどの位置にいるかによるのである。

 つまり、名門校に入っても、クラスの中で比較的下位にいると、勉強の成績が良くなるどころか悪くなることもある。

 心理学の研究では、自分が属するグループの中で自分の能力を比較してしまう傾向が確認されている。これは「小さな池の大魚効果」と呼ばれ、勉強の自信に関する考え方に影響を与える。学力が高いグループにいると、勉強に対する自信が下がることが示されているのだ。

 これが事実なら、背伸びをして名門校へ行くのは、むしろ子どもの向上心を阻害する可能性がある。中学受験をするかしないかも含めて、進学する学校を選ぶ際は注意を払った方がいい。さらに、中学受験に失敗すれば、子どもが心に痛手を負うこともある。

「経営の神様」稲盛和夫氏も
中学受験の失敗がトラウマに…

 実は、京セラとKDDIの前身である第二電電を創業し、経営破綻した日本航空を復活させたことで「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏もその一人だったようだ。稲盛氏は中学受験に失敗して、それが心の大きな傷となったという。当時の状況が、加藤勝美著『稲盛和夫 創業の原点 ある少年の夢』(出版文化社)の中で以下のように記されている。少し古い記述があることもあり、解説を入れつつ、引用する。

 中学受験を失敗し、直後に当時「死の病」と呼ばれていた結核まで患ってドン底を経験した稲盛氏が、そこからはい上がれた理由を探ってみよう。