狂騒!半導体 #5澤田純・NTT会長(右)と黒田忠広・東京大学教授。 Photo by Masato Kato

生成AI需要と地政学リスクの高まりから、半導体市場が異様な盛り上がりを見せている。そこで、日本の半導体戦略を中枢で動かすキーパーソン2人の対談企画【前編】をお届けする。NTTの澤田純会長は半導体のユーザー企業首脳であるとともに、経済産業省の半導体・デジタル産業戦略検討会議のメンバーとして日本の半導体戦略の方向性を示してきた。東京大学の黒田忠広教授は東芝の技術者出身。過去40年にわたり半導体産業の栄枯盛衰を目の当たりにしてきた歴史の証人だ。台湾TSMCの日本への誘致交渉に大きな役割を果たした重要人物でもある。特集『狂騒!半導体』(全17回)の#5では、「TSMC誘致の背景」と「半導体産業復活の理由」について語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二、浅島亮子)

バイデン政権でもアメリカファースト
“公益”資本主義の台頭

――日本政府による巨額支援で、半導体産業に投資競争が起きています。産業競争力の強化と経済安全保障の確保という視点を踏まえて、政府が支援する意義はどこにありますか。

澤田 半導体に限った話ではないですが、ここ数年でグローバルな資本主義の意味合いが変容しました。“公益”資本主義が台頭したのです。経済安全保障が国家の安全保障に関わるという認識が世界共通になりました。

 日本語ではいずれも経済安全保障と訳されますが、英語では「エコノミックステイトクラフト(経済的手段による国益の追求)」から「エコノミックセキュリティー」へと一段強い言葉に置き換わりました。米欧中でも日本でも、政府の関与を高めて官民連携で新しい産業政策と経済安全保障に備えるというのがトレンドになったのです。

黒田 10年前には半導体に公共投資をするなどという議論は皆無でした。半導体は民間投資で成長してきたわけですが、官民投資の流れは、もう戻れない潮流です。

澤田 もともと共和党のトランプ前米大統領はアメリカファーストの方針でしたが、民主党のバイデン米大統領が推進したIRA(インフレ抑制法)もCHIPS法(半導体産業支援法)も、ふたを開けてみれば中身はトランプ時代と同じアメリカファーストでした。

 ですから、日本が半導体産業に補助金を投下したり、次の先端産業に資金を入れたりすることは異質なことではないと思います。

――台湾TSMCの誘致について伺います。日本に海外メーカーの先端工場を持ってくる意味について解説してください。

次ページでは、日本の半導体戦略を中枢で動かしている澤田氏と黒田氏に、TSMCが日本に進出した狙いを分析してもらう。また、黒田氏によれば、半導体産業は3回目の成長期を迎えているという。栄枯盛衰を繰り返してきた半導体産業の現在・未来を見通してもらった。