日本政府は急転直下の勢いで、半導体産業への支援を強化している。2021~23年度の3年間で総額4兆円もの支援予算を確保し、台湾TSMC熊本工場、米マイクロン・テクノロジー広島工場、最先端半導体の国産化を目指すラピダスなどへの巨額支援を実施してきた。特集『狂騒!半導体』(全18回)の最終回では、政府の半導体支援のキーマンである自民党の甘利明・前幹事長のインタビューをお届けしよう。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二、浅島亮子)
驚天動地の半導体支援
「国家100年」の危機感で推進
――政府の半導体支援の予算は、21年度に7740億円、22年度に1兆3036億円、23年度に1兆9867億円。3年間の総額で約4兆円に上りました。
驚天動地のことが起こっています。経産省全体の本予算の規模はおよそ1兆円弱で、特別会計を除けば4000億円前後しかないのに、補正予算で兆円単位の規模を支援するなど前代未聞。政府は、それだけ半導体が重要だと考えているからです。
経済安全保障戦略の始まりは、コロナ禍の20年。当時、自民党の政調会長だった岸田文雄首相と「コロナが明けた頃には中国が世界のルールメイキングを仕掛けてくるので、自由主義陣営でポストコロナの新しい秩序を作る戦略を構築しなければならない」と話したのがきっかけです。
そこで、政調会長直轄の「新国際秩序創造戦略本部」を党内に立ち上げ、小林鷹之衆議院議員や山際大志郎衆議院議員らをメンバーに議論を重ねて、経済安全保障戦略策定を政府に提言しました。
半導体戦略推進議員連盟は、自民党の関芳弘衆議院議員の呼びかけで、新国際秩序創造戦略本部のメンバーを中心に発足したのですが、単なる半導体産業振興とは違います。21年5月の立ち上げ時に、安倍晋三元首相と麻生太郎元首相の2人に最高顧問になってもらって、国家戦略として半導体戦略を推進していくのだという強い意志でスタートしています。
半導体は経済安全保障上の戦略部品です。向こう100年の国家や産業のチョークポイントとなる。半導体戦略を打ち出したときに、(日本の半導体メーカーが競争力を失っていたこともあり)、何を今更と批判を浴びました。だけど挑戦しなかったら、日本は向こう100年間、誰かにチョークポイントを押さえられたまま奴隷のようになってしまう。誤解を恐れずに言えば、それくらいの危機感があったということです。
政府の半導体支援を「経済安全保障」の国家戦略と位置づけて、政治サイドからのバックアップを惜しまない甘利氏。最先端半導体へのチャレンジの結果、TSMC第2工場で“6ナノメートル”半導体の設備を導入することが決まり、マイクロンは広島工場に極端紫外線(EUV)露光装置を導入することになった。次ページでは、そこに至るまでの水面下の激しい交渉や、経済安保の展望についてなど余すところなく語ってもらった。