佐藤 現場ではどのようなことを心がけましたか。
ジョリー まずは、自分の目で現場の状況をしっかり確かめることに注力しました。顧客は店内でどのような動きをしているのか、従業員はどう接客しているか、どんなふうに商品を陳列しているか――。とにかく、店舗をくまなく歩き回りました。
それから従業員には多くの質問をしました。私が特に繰り返したのは次の三つの質問です。「この店舗でうまく機能していることは何ですか」「逆にうまく機能していないことは何ですか」「その問題を解決するために何が必要ですか」。皆、とても詳しく現場の状況を教えてくれました。
「私たちの存在意義は何なのか」
従業員から上がった不満
佐藤 「改善すべき点」をCEOに直接伝えるのを、従業員が躊躇(ちゅうちょ)するようなことはなかったでしょうか。
ジョリー 従業員は良いことも悪いことも正直に話してくれましたよ。インタビューをする前に、「私はベストバイを救いたいと思っています。そのためには、改善すべき点や現場のニーズを率直に知る必要があります。正直に話してくれることが、ベストバイのためになると思ってください。経営側は全力で現場を支援し、問題を解決していくつもりです」とはっきり伝えましたから。
さらに先ほどもお伝えしたとおり、当時のベストバイは倒産寸前で、従業員の間にも「何か手を打たなければ、この会社はつぶれてしまう」という危機感が広がっていました。ベストバイの苦境を特集したビジネス誌の表紙には「青いシャツを着たゾンビ」の絵が書かれていたほどだったのです。CEOに良いことばかりを伝えるような余裕なんてありませんでした。
佐藤 現場の従業員からはどんな指摘がありましたか。
ジョリー 現場で発見したことをいくつかご紹介しましょう。
ある販売員は、ベストバイの公式通販サイトの検索エンジンに不具合があることを教えてくれました。それはピザ店で夕食をともにしていたときのこと。「ユベール、ベストバイのウェブサイトが問題だらけなのを知っていますか」と質問してきました。「問題だらけってどういうこと?」と逆に聞くと、「『シンデレラ(Cinderella)』と検索ボックスに入力すると、画面にニコンのカメラがずらっと出てきます!」※と言うではありませんか。こんな重要な欠陥を本社の役員は誰も把握すらしていなかったのです。
編集部注※的外れの検索結果が出てくるということ
また、従業員が「見るだけで買わない」顧客に対して、いらだっているのも分かりました。アマゾンで買う前に実物を確認しに来ているだけの顧客に対して、何をすればいいのか。私たちの存在意義は何なのか」と聞いてきた従業員もいました。ベストバイで製品を購入してもらうにはどうしたらよいのかが分からず、途方に暮れていたのです。
さらに現場の従業員は、「社員割引」が廃止されたことに対して納得がいかないと語りました。前経営陣は、自分たちには巨額の役員ボーナスを支給することを決定しましたが、その一方で従業員割引を廃止したのだそうです。「あなたたち経営者は一体、何をしているんですか。ベストバイの従業員は家電製品が大好きだからここで働いているという人が多いのに、これではやる気を失ってしまうではないですか」と、私に不満をぶつけてきました。
私はこれらの意見一つ一つに真剣に耳を傾け、メモを取り、できるところから改善していくことにしたのです。