ジョリー それはやはり、私が小売業について何も知らなかったことがプラスに働いたからではないでしょうか。何も知らないから、質問したし、自然に謙虚になれた。「CEOは何でも知っているスーパーヒーローなのだから、従業員はCEOの命令に従っていればよい」という考え方はいまや通用しないと思います。
私はCEOとは、Chief Energizing Officer(=従業員にエネルギーを与えるオフィサー)の略だと思っています。店舗を訪問した際には、いつも「真剣に意見を聞いているか」「尊敬の気持ちを持って接しているか」「思いやりの気持ちを示しているか」と自問自答しながら、従業員に接していました。
また従業員には、「何年、ベストバイで働いていますか」「夢は何ですか」といった個人的なこともたくさん質問しました。現場の従業員との日々のコミュニケーションを通じて、従業員にエネルギーを与えていくことこそが、CEOの役割だと思ったからです。
こうした地道な活動を日々続けたことが、結果的に、ベストバイのV字回復につながったのではないでしょうか。改革をやり遂げた今、30年前に学んだ「やる気のある従業員が、優れたビジネスを生み出し、その優れたビジネスが、優れたパフォーマンスをもたらす」は真理だったと実感しています。
ハーバードビジネススクール上級講師。専門はリーダーシップ、特にパーパス経営。米家電量販店大手ベストバイ元会長兼CEO。MBAプログラムの必修講座「企業の社会的目的」および、エグゼクティブプログラムの講座などを担当。ベストバイCEO在任時には「人とパーパス」を核としたリーダーシップで経営再建を主導し、同社をアメリカ最大級の家電量販店チェーンに成長させた。その経営思想や再建手法は高く評価され、ハーバードビジネスレビュー誌「世界のトップCEO 100人」、Thinkers50「世界のトップ経営思想家50人」などに選出。現在は、教壇に立つかたわら、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ラルフ・ローレン・コーポレーションの取締役を務めるなど、幅広い分野で活躍。近著の『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』はアメリカでベストセラーとなった。
佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。講演依頼等お問い合わせはhttps://www.satochie.com/。