「賃上げしたくても決断できない」中小企業の社長がお悩み相談→慶応SFC教授の答えは?保田隆明・慶応義塾大学総合政策学部教授(左)、三木雄信・トライズ社長 Photo:DIAMOND

ソフトバンク社長室長を経て英会話スクールを経営する筆者が、「中小企業の社長の悩み」を専門家と語りながら、さまざまな知見を深めていきます。今回は、コーポレートファイナンスやベンチャービジネスが専門の保田隆明・慶応義塾大学総合政策学部教授に「中小企業の賃上げ」をテーマに話を聞きました。(構成/ライター 正木伸城)

「賃上げ」したいけど、できる?
中小企業の社長の深き悩み

三木雄信 私は英会話スクールを運営する従業員100人超の会社を経営しているのですが、今一番の悩みがズバリ「賃上げ」。賃上げをしたい気持ちはあっても、なかなか決断できません。というのも会社は一度、賃金を上げると今度は「下げる」ことがかなり難しい。これって、中小企業が賃上げできない要因の一つじゃないかなと私は思うのですが、保田さんはどのように思われますか?

保田隆明 確かに、今の日本の法律や仕組みでは、賃金を一度上げたら、下げることは難しい。経営者は会社の先行きを考えると、「給料を上げるのはやめておこう…」という判断になりがち、ということですか?

三木 世間は賃上げして景気を良くしていこうと言っているけど、もしまたリーマンショック直後やコロナ禍くらい景気が悪くなったらとか、事業拡大中に不測の事態が起きたらとか、中小企業経営者ならモヤモヤしていると思います。

 それで、私のジャストアイデアなんですが、今はホテルや航空券でダイナミック・プライシング(需給によって価格を変動する手法)が当たり前になりました。これをまねして、ダイナミック・ウェイジ(wage=賃金)なんて、できないのかなって。というのも経営者にとっては、その時々の社員のパフォーマンスに見合った給与を出すことが、最も効率が良い。

 正社員でも、育児や介護などプライベートとの両立などを意識して、給与を下げてでもゆっくり働きたいという人も増えています。そういう人に合わせたもっと柔軟な賃金形態があってもいいのではないでしょうか。

保田 まずは、上場している大企業と、上場している中堅企業と、ベンチャーを含む未上場企業に分けて考えてみましょう。極論すると、未上場企業って賃上げをやろうと思えばできるはずなんです。上場企業は、利益を株主や従業員、その他いろんなステークホルダーで分ける必要がありますよね。だけど未上場企業は株主イコール社長が多いわけで、利益をいろんなステークホルダーで分ける必要もそんなにないし、賃上げすれば節税にもつながります。

 しかし、仮に中小企業が賃上げしたとしても、また別の問題があります。