92歳の現役看護師が教える、子どもが注射で大暴れしなくなる「魔法のやりとり」写真はイメージです Photo:PIXTA

昨今、職場におけるコミュニケーションの悩みを解決するために、傾聴や1on1といった聴く力の重要性が説かれている。ではどうすれば聴く力を身に着けることができるのか。そのヒントは子どもへの接し方にあるようだ。本稿は川嶋みどり著『長生きは小さな習慣のつみ重ね 92歳、現役看護師の治る力』の一部を抜粋・編集したものです。

病院嫌いな子どもに行う
“心に橋をかける”ということ

 私は耳鼻科外来の看護師をしていたことがあります。耳鼻科の診療は鼻の中を覗いたり、綿棒を突っ込んだりするので、子どもは嫌がるのは当然ですね。わーわー泣いて大騒ぎをする子もいて、看護師は2人がかりで手足を押さえたりして、とても大変です。

 暴れると、じっくり診察することや丁寧な治療ができなくなります。そこで、私が行ったのは“心に橋をかける”ということでした。

 初診時には、お母さんに「すみませんが、お子さんとお話をさせてください」とお願いしてから、お喋りをします。こんなやりとりの他愛もない会話です。

私「今日は誰ときたの?」
子ども「ママときた」
私「どうしてきたの?」
子ども「お熱が出るから」
私「そうなんだ。熱が出ると辛いね」
子ども「帰りにアイス買ってくれるんだって」

 少し話すと気持ちもほぐれてくるのでしょう。会話がスムーズになってきます。そうしたら、病気と関係のないことを話し、もう少し心の距離を縮めます。

私「お友だち、なんていうお名前?」
子ども「たっちゃんと、そらちゃん」
私「好きなテレビとかある?」
子ども「あるよ、仮面ライダー」
私「かっこいいよね。おばちゃんも大好き! 今日ね、おばちゃんが○○くんのそばについていてあげるから、ひとりで座れるかな?」
子ども「うん、すわれるよ」
私「すごいね。じゃあ、お口を大きくあけてくれるかな?」
子ども「うん、いいよ! あーん」

 こういう手順を踏むと、ほとんどの子は、大人しく診察させてくれます。それをしっかりとほめ、次につなげていくのです。

私「○○くん、すごかったよ。1人で座れたね」
子ども「うん!」
私「○○くん、ケガしたことある?」
子ども「あるよ」
私「そうか、痛かったね。そのとき血が出た? 何色だった?」
子ども「あか」
私「なんで赤いのかな。調べてみようか」
子ども「うん、いいよ」
私「この注射器で調べるんだけど、大きいのと小さいの、どっちがいい?」

 そう言いながら、100㏄と5㏄の注射器を両方見せます。ほぼ全員の子どもが小さいほうを選びます。でも、こうすると1人で座っていられるし、痛がらないのです。自分で選んで採血することで自尊心が高まるのですね。