今年入社する内定者が
一人だけになってしまった

 次の日の午前中。甲社会議室で内定者の入社前ガイダンスが行われ、A課長のほか、総務課員2人とEが参加した。内定者が自分だけしかいないことに気づいたEは、A課長に尋ねた。

「あれ?Bさんがいないけど欠席ですか?」
「Bさんは、昨日内定を辞退しました。だから今年の新卒採用はEさんだけです」
「えーっ!」

 BとEは違う大学の出身だが、内定者の集まりで顔を合わせるうちに仲良くなっていたので、Bが自分に黙って内定を辞退したことにEはショックを受けた。その気持ちを察したA課長は、

「同僚がいなくて寂しいでしょうが、その分みんなでフォローしますから安心して下さい」

 と慰めた。しかし、Eは意外な話を持ち掛けた。

「自宅の近くに住む10歳上のいとこが機械設計のエンジニアで、最近会社を辞めて転職先を探しています。私が会社の皆さんから親切にしてもらっていることを話したら『そんなにいい会社なら自分も働きたいから紹介してほしい』と言ってます。もしBさんの代わりを探すようであれば、紹介してもいいでしょうか?」
「本当?中途でも条件が合えば採用しますよ。早速君のいとこにコンタクトを取りたいから連絡先を教えて下さい」

 A課長からEのいとこの件で報告を受けたC社長は喜んだ。1週間後、Eのいとこを面接したA課長、C社長、関係部署の課長の3人は、彼の前職でのキャリアが会社にとって貴重な戦力になると判断し、全員一致で採用を決めた。

「『災い転じて福となす』とはこのことだな」

 C社長の言葉に、A課長はほっと一息ついたのだった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。