学生側から内定を辞退、
複数の企業から内定を得ることに問題はあるか
C社長は話を続けた。
「B君はもともと機械設計のエンジニア希望だったので、内定後、新入社員研修が終わったら関係部署に配属することを約束し、食事会を開いた時に、上司になる課長にも引き合わせました。彼は課長の激励を受けて、大層喜んでいたんですよ」
「そうでしょうね。新卒社員が入社早々希望する職種に就けるって、あまり聞かないです」
「内定者には教養書籍をプレゼントしたり、3回の食事会はフレンチやイタリアン、中華料理のフルコースを用意したりと、最大限の歓迎の意を表したつもりです。なのに今さら内定辞退だなんて信じられない。A課長もそう思うだろう?」
「ええ。会社では毎年2~7人程度の新卒者を採用していますが、今まで内定を辞退されたことはありません。せめてもう少し早く分かっていれば、追加募集をかけるなりして対処できたんですが……。こんな直前でも、学生側から内定辞退ってできるんですか?」
○内定者が内定を辞退した場合、始期付解約権留保付の労働契約の解約に当たる。
○内定者との労働契約を企業の都合で解約する場合(内定の取り消し)は、厳しい条件が課せられるが、内定者側からの解約(内定の辞退)は、期間の定めのない労働契約の場合、入社日の2週間前に申し出れば理由を問わず自由に行うことができるとされ(民法627条)、この場合企業の承諾は必要ないし、辞退する理由を説明する義務もない。
○さらに新卒採用の場合、実情として内定者から内定承諾書や誓約書などが提出されていても法的な効力を持つとは言えず、内定者が就職活動を継続し、他社へ就職することは職業選択の自由(憲法22条)の範疇(はんちゅう)だとしている。また、学生が複数の企業から内定を得ることは法律上の違反行為ではない。
A課長は困った顔で言った。
「内定を辞退した日が3月1日で、入社日は4月1日。この間が1カ月あります。要するに、B君が内定を辞退しても法律的には問題ないってことですね。しかし会社としては、新卒者を採用するのに募集活動、選考作業、内定式や食事会など、手間と費用を掛けています。それに、内定を辞退されると再度求人をしなければなりません。設計エンジニアは現在10人いますが、そのうち8人は50歳代以上。彼らが現役のうちに若手を育成することが急務で、今すぐB君みたいな人が欲しいんです。でも、すぐに代わりは見つかりませんよね、社長……」
「その通り。内定を辞退したB君には、彼に与えた書籍代と飲食代、これから新規求人にかかる費用を請求したいくらいだ。Dさん、それって可能ですか?」