内定を辞退した学生に対して、
企業は損害賠償を請求できるか

【内定を辞退した学生に対して損害賠償を請求できるか】
○内定辞退は法的に許容されているので、企業が内定者に対して原則損害賠償の請求はできない。
○ただし、研修等に参加しながら入社直前に理由なく内定辞退を申し入れた場合など、その行為が著しく企業への信義に反するときは、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償責任を内定者が負うこともある。しかし損害の範囲は、新たな採用活動にかかった費用程度と極めて限定的で、企業が請求する損害すべての賠償が認められるわけではない。
○Bの場合は入社1カ月前に甲社に内定辞退の連絡をしており、著しく信義に反する行為には該当しないので、損害賠償の請求はできない。

 C社長は、D社労士への質問を続けた。

「では、次回から内定承諾書に『内定承諾書提出後に内定を辞退する場合は、会社に違約金を支払うこと』と記載しておけば、実際に内定を辞退した場合、違約金の支払いを求めることはできますか?」

【内定辞退による違約金の合意は可能か】
○企業と内定者との間にはすでに労働契約が成立しているため、内定者は労働者として労働基準法の適用を受ける。
○労働基準法では、使用者(企業)は、労働契約の不履行について違約金の定めや損害賠償額の予定をする契約を禁止している。(労働基準法16条)
○よって内定者に対して内定辞退による違約金を請求することはできない。内定承諾書等にその旨の記載があっても無効である。

 A課長はC社長に同意を求めた。

「Bさんの入社はあきらめて、損害賠償や違約金の件も無しにしましょう。それでいいですね、社長」
「法律的に無理なら仕方がない。しかしB君の態度にはどうしても納得できない。もう彼の出身大学の学生を新卒で採用するのはやめようと思うが、この考え方はOKかな?」
「誰を採用するかは甲社に選択権がありますから、大学に求人票を出さなければ済むことです。学生たちにとってはその分就活が不利になることも考えられますが、仕方ないでしょう」

 D社労士が退席した後、A課長とC社長はBの代わりをどうするか話し合ったが、結局答えは出なかった。