社長が内定者に電話
辞退の理由は……

 社長室に戻ったC社長は、Bの携帯に電話をかけた。Bが電話に出ると、いきなり「内定を辞退するそうだね。理由を聞かせてもらえませんか?」と迫った。しかしBは「すみません」と言ったきりで、その後C社長がいくら理由を尋ねても無言を貫いた。

 C社長が単刀直入に「もしかして、他の会社からも内定をもらっていて、その会社に就職するつもりじゃないですか?」と問いかけると、Bは消え入るような小声で「そうです」と答えた。

「Bさんにはとても期待しているので、ぜひ当社に入って活躍してもらいたいんですが、無理ですか?」
「すみません……」

 その後もC社長は何度か説得を試みたが、Bの意志は変わらなかった。

企業と内定者の間には
どんな労働契約が結ばれている?

 午後4時。C社長、A課長と面談する約束をしていたD社労士が社長室に現れた。

「こんにちは。お二人そろって暗い顔をしてますが、どうしたんですか?」
「たった今、新卒採用者に内定を辞退されたんです。急な話で、もう頭の中が真っ白です」

 C社長の嘆きにD社労士は驚いた。

「本当ですか? 4月まであと1カ月なのにそれは大変ですね」

【内定とは】
○内定とは、企業が候補者に採用の意志を伝え、候補者が了承することで入社の約束ができた状態をいい、やり取りは書面で行われる。今回の例でいうと甲社から「採用通知書」を受け取ったBが、甲社に「入社承諾書」を提出することで、甲社とBの間に労働契約が成立する。
○ただし、内定状態での労働契約は通常の労働契約ではなく、「始期付解約権留保付(しきつきかいやくけんりゅうほつき)」の労働契約を結ぶ。
○始期付解約権留保付の労働契約とは、下記の内容を含んだ契約のことをいう。
・実際に働き始めるのが学校卒業後であること。
・一定の場合企業側から内定取り消し(労働契約の解約)の実施が可能であること。
・一定の場合とは、○単位不足で学校を卒業できない、○病気やけがのため入社に間に合わずその後も長期間働けない、○選考書類の記載内容や面接時の発言に虚偽があったなどが該当する。