つまり、今の日本企業は設備投資や雇用を増加させる余力が生じた結果、バランスシート不況と逆の現象が起こっていることを意味する。日本経済は今日、需要不足によるデフレレジームを脱し、需要超過によるインフレレジームへと転換する機会をうかがっている。
海外に目を向けると、米国もかつて金融危機とともに発生した資産価格の下落を受け、日本と同様のバランスシート不況を経験した。しかし日本の失敗から得た教訓から、正鵠を射た政策が早急に実施された。その結果、資産価格は早々に調整され、バランスシート不況は短期間で終焉した。そればかりか、コロナ禍後の金融緩和と拡張的財政政策は強力な「バランスシート好況」をもたらし、現在まで続くインフレにつながっている。
米国とは対照的に、バランスシート不況の入り口に立っているのが現在の中国経済だ。かつての日本と同様に、苛烈な引き締め政策の結果、中国の不動産価格は調整に転じている。人民元の管理を困難化させることを踏まえると、大胆な金融緩和措置によるてこ入れを期待することは難しい。
日本が長く経験した、構造的な需要不足によるデフレ時代。同じことが中国で起きる可能性が視野に入っている。
(みずほ証券 エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)