「成功した」より「成功するかも」で出る
幸福物質のドーパミン

 人間には、目的達成のために「やる気」を起こさせるモチベーションが必要です。生きるために必要なモチベーションを促し、幸福感をアップさせてくれるのが幸福物質であるドーパミンです。

 ドーパミンは、「意欲」「運動」「快楽」に関係する神経伝達物質で、「気持ちがよい」「心地良い」と感じると出るといわれています。精神科医の樺沢紫苑(かばさわ・しおん)氏は、著書『精神科医が見つけた3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』(飛鳥新社)の中でドーパミン的幸せをこう説明しています。

 ドーパミン的幸福は、一言で言うと「成功」の幸福です。 ドーパミンは脳を興奮させるので、ドーパミン的幸福には「高揚感」が伴います。 「やったー!」と思わず手を上げてしまうような「喜び」「楽しさ」「達成感」が、ドーパミン的幸福です。

 例えば「スポーツの大会で優勝」して、「やったー!」と大喜びするシチュエーションが分かりやすいでしょう。 ドーパミン的幸福とは、言い換えると「何かを得る、達成した喜び、幸せ」です。 お金を得る。 欲しい物を手に入れる。 あるいは昇進、昇給などの仕事での成功、地位や名誉なども当てはまります。 人から認められるのもそうです。

 何かを「得る」には、行動や努力が必要です。 頑張らないと昇進したり、会社で認められたりすることはない。 結果を出すためには、労力や時間もかかる。 あるいは、何かを買うには、お金もかかります。 つまり、ドーパミン的幸福を得るには、「対価」が必要であるということ。 ドーパミン的欲求というのは、ある意味大変なのですが、だからこそそれを得たときの喜びは大きいのです。

 実は最近の研究で、ドーパミンは成功したときより、「この先何かいいことがあると感じたときに出る」ということが分かってきました。

 サルを対象としたある研究にて、ボタンを押すとサルの欲しい物が出てくる実験をしたところ、ボタンを押すと欲しい物が出るとサルが気づいた時点で、サルの脳からドーパミンが出ることが分かりました。

 ドーパミンが生じさせるのは快感ではなく、きわめて強い「快感の予感」なのです。それは希望と言い換えることもできます。

「明日は今日よりもっと楽しいに違いない」と皆が未来に希望が持てたバブル時代は、いわばドーパミン的幸せに満ちたウェルビーイングな時代だったといえるでしょう。

 日本人の幸福感も昭和から平成、令和と時代が移り変わる中で若い世代を中心に大きく変わってきていますが、日本のように経済成長が停滞した国ばかりではなく世界的にも今、幸せの価値観は大きく転換しています。

 その背景には、社会の成熟とグローバル化が進み、人々の価値観や生き方が多様化したこと、そして、解決すべき社会問題を取り巻く利害関係が複雑化したことがあります。