プリンター大手のローランド・ディー・ジー(DG)を巡り、同業のブラザー工業と米投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズの間で争奪戦が勃発した。タイヨウがローランドDGの経営陣と組んで実施中のMBO(経営陣が参加する買収)に“横やり”を入れる形で、ブラザーがTOB(株式公開買い付け)を実施する計画を発表したのだ。MBOを実施中の企業に対し、事業会社が事前同意を得ずにTOBに乗り出すのは極めて異例だ。タイヨウのブライアン・ヘイウッドCEO(最高経営責任者)がインタビュー取材に応じ、3者が絡むこれまでの複雑な経緯を明らかにするとともに、ブラザーの買収案が抱える二つの欠点を指摘した。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
ブラザーがファンド主導のMBOに横やり
過去に2度TOB提案も協議は打ち切りに
プリンター大手のローランド・ディー・ジー(DG)は2月、米投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズと組んでMBO(経営陣が参加する買収)を実施すると発表した。タイヨウはローランドDGの経営陣の賛同を得て2月中旬から、ローランドDGの株式を1株当たり5035円で買い取るTOB(株式公開買い付け)を実施している。
そこに割って入ったのが、同業のブラザー工業だ。
ブラザーは3月中旬、ローランドDGに対するTOBを始める計画を公表した。TOB価格は1株5200円で、買収総額は約640億円を見込む。投資ファンドが実施するMBOに対し、事業会社が、当該会社の事前同意なしでTOBを予告する異例の事態となった。
実は、ブラザーはこれまでにもローランドDGに買収を提案している。2023年9月、ブラザーはローランドDGに1株4800円のTOBを提案している。今年2月、ローランドDGがブラザーとの間の「ディスシナジー(マイナス効果)の懸念」が解消されないとして、協議を打ち切ると、ブラザーは今度は1株4850円に価格を引き上げ再度提案に踏み切った。これも、ローランドDGがタイヨウとのMBOを選び、再び退けられた。つまり、今回は3度目の挑戦ともいえるのだ。
ブラザーが発表したTOB計画では買い取り価格は、タイヨウが実施中のTOB価格(1株5025円)を上回る1株5200円。それを受け、ローランドDGの足元の株価は5400円前後で推移するなど今後の価格の引き上げ合戦を意識した値動きとなっている。
タイヨウはTOBの買い付け期間を4月26日まで延長。ローランドDGはブラザーの買収提案の検討に入っている。3者の次の動きに注目が集まる中で、タイヨウのブライアン・ヘイウッドCEO(最高経営責任者)がダイヤモンド編集部の取材に応じた。
次ページでは、ヘイウッド氏が、ローランドDGに投資したいきさつに加え、今回の当事者である3者を巡る複雑な経緯を明かす。また、ブラザーの買収案が抱える二つの欠点についても指摘する。一方で、ブラザーの買収案を受け入れる条件についても触れた。